第13話 治療2
「リビティナ、姉貴を救ってくれてありがとう。何とお礼を言っていいのか分からないよ」
今はベッドで眠っているレミシャの手を握りしめながら、レグノスが礼を言う。
だけどリビティナは、気が気ではなかった。こうしてレミシャの傷が塞がったのはいいけど、それはヴァンパイアの眷属になってしまった結果なのかも知れないからだ。
――いったい、眷属になってしまったらどうなるんだろう。
リビティナの言う事だけを聞く奴隷のようになってしまうのか、ヴァンパイアとなって、これからも血を吸うモンスターとして生きるのか……。
緊急事態で仕方なかったとは言え、レミシャの同意もなく血を与えてしまった。
「まだ意識は戻ってないからね。しっかり看病してやってくれるかな。ボクは今晩この町に泊まって、明日またここに来るよ」
「巡礼中なのにすまなかった。俺はあんたの為ならどんな事でもする。この言葉に嘘はない」
「その事はあまり気にしないでくれるかな。今はたった一人の肉親の事だけを考えてくれたらいいよ」
ありがとうと何度もお礼を言われるたびに、後悔にも似た気持ちが沸き上がってくる。
神様に眷属を作るのが仕事だと言われたけど、眷属とはどういうものなのか全く考えてこなかった。眷属を作る事がモンスターを増やす事だとしたら、そんなのはまっぴらごめんだ。
沢山の奴隷を作って、リビティナに何かやりたい事がある訳じゃない。平和でのんびりとした暮らしがしたいだけなのだから……。
只々神様に言われた通り眷属を作っていたら、それこそ自分が神様の奴隷になったのと同じじゃないか。
しかしまだ、レミシャが眷属になったとは限らない。口元を見ても牙は生えていないし、耳も変化は無かった。意識が戻ってから、その様子を見る必要がありそうだ。
昨日から色々な事がありすぎて、精神的に疲れてしまった。リビティナは昨日の宿屋に戻って、今夜の宿を取った。
宿での食事中も、「あんたは凄腕の魔術師なのか」とか、「俺達のパーティーに入ってくれ」だとか、冒険者ギルドでの一件を知った人達から声を掛けられた。
今日は疲れているからと、食事もそこそこに部屋へと引き返す。
そういえば、別にお腹が空いていたわけでもないのに食事をしていた事に気が付いた。レミシャの血を吸ったからかな? 血の味とかは全然覚えていないけど、違和感なく血を吸っていたなと思い返す。
まあ、ヴァンパイアなんだから当たり前なんだろうけど、レミシャが眷属となって血を吸う姿は見たくない。
翌朝、日が昇った頃、宿屋の主人がドアをノックした。
「起きているかい。レグノスさんがあんたに会いたいと来てるんだがね」
今朝の朝食はどうしようかと思いながら、荷物をまとめていたところだった。仮面をつけて慌てて下に降りると、レグノスが満面の笑みで迎えてくれた。
「姉貴の意識が戻ったんだ。リビティナに会ってお礼がしたいと言っている。一緒に来てくれないか」
意識が……。それにレグノスと普通に会話をしているようだ。心配したことは起きていない。レグノスは荷馬車を宿屋の前に停めて待っていてくれる。急いで部屋に戻り、荷物を詰めたリュックを持って荷馬車に乗り込んだ。
レグノスの下宿屋に向かいながらレミシャの様子を聞くと、ベッドから起きて歩くことはできないそうだけど元気にしているらしい。意識が戻ってすぐにお腹が空いたと、スープを何杯も飲んだそうだ。
ヴァンパイア化している訳じゃなさそうで、良かった……本当に良かったと、一安心する。
「リビティナちゃんが私を助けてくれたんだってね。レグノスから聞いたよ。本当にありがとう」
「体の調子はどうだい。飲んだスープは美味しかったかい」
味覚は変わっていないか、目の色はどうだろうかと注意深くレミシャの様子を見る。
「多くの血を失ったせいか、お腹が空いて仕方ないよ」
「それはいい兆候だね。少し背中の傷を見せてもらってもいいだろうか」
治療したいからとレグノスには部屋を出て行ってもらって、上着を脱ぎベッドにうつぶせになってもらう。背中に翼はないようだね。傷口の肉が盛り上がり傷は塞がっているけど、みみずばれのような傷跡が痛々しい。たぶんこの傷跡は残るだろうと思いつつ光魔法で治療していく。
「左手の具合はどうかな」
「少し痛みがあって指が動かし辛いけど、ここまで治ったのもリビティナちゃんのお陰よ。感謝しているわ」
「リハビリすれば、元通り動くようになるさ」
「ええ、頑張るわ」
レミシャの言葉を聞いている限り、前と変わらず自分の意思でしゃべっているように思える。眷属となって奴隷化したりしていないようだね。
神様の言うように、血を吸ったり牙を立てただけでは眷属にはならないようだ。でも、牙からヴァンパイアの血を与えると回復する……と言うより体が再生している。
レミシャの手は骨や神経も切れていたけど、今は指が動かせると言う。ヴァンパイアであるリビティナも体は再生し、銃弾ぐらいじゃ死なないと言うから、その力の一部を与えられるんだろう。
「君はしっかりと食事を摂り、ゆっくりと寝て回復する事に専念してくれ」
「ええ、そうするわ」
「少しレグノス君を借りたいんだけど、いいかな」
「ええ、それは結構よ。でも何をするの?」
「ボクもこの町を出る前に、お金を貯めておきたいんで冒険者ギルドで依頼を受けたいんだ。その手伝いをしてもらいたい。心配しなくてもいいよ、夕方前には帰ってくるからね」
そう言って、ドアを開け外で待つレグノスの元へ行く。
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