第十四話 仲間達への鎮魂歌②

「ガーベさん!!」


 と、聞こえてくるリーシャの声。

 ガーベは何とか立ち上がり、その声が聞こえてきた方へと視線を向ける。

 すると。


「ガーベさん! ガーベさん!!」


 と、嬉しそうな様子で駆けてくるリーシャ。

 彼女はそのままガーベへと近づいてくると——。


 ひしっ!


 さすがビッチ。

 勢いよく抱きついてくる。

 そして、彼女はガーベを強く抱きしめながら。


「すごいです! ガーベさんは本当にすごいです! リーシャ、ガーベさんが居なかったらやられるところでした!」


「……」


「ゴブリンを連れて来てくれたの、ガーベさんなんですよね!?」


 その通りだ。

 あのゴブリン達はガーべの産まれて初めての友達。

 リーシャをめちゃくちゃにするために、共に立ち上がった真の仲間……なのに。


「ゴブリンとオーガが対立してるのを利用して、互いをぶつけ合う! そして、最小限の被害と労力で村を救うなんて……ガーべさんは本当にすごいです! リーシャ、すごすぎてすごいしか言えません!」


 きゃっきゃっ!


 と、猿みたいに喜んでいるリーシャ。

 いや、彼女だけではない。

 気がつくと、ガーべ達の周りには村人もやって来ている。


 パチパチ。

 パチパチパチ。


 と、幸せそうな表情で拍手をし。

 どいつもこいつも一様に。


「村を救ってくれてありがとう!」


「ありがとうガーベさん!」


「君はこの村の英雄だ! リーシャくん共々、この村の広場に銅像を建てよう!」


 ガーべさんガーべさん。

 奴らはニコニコ笑顔で褒め称えてくる。

 しかし、全く嬉しくない。

 というかむしろ、ガーベの中にあるのは激しい後悔だ。


(ゴブリンとオーガは対立していたのか!? でもゴブリン達に、村のことを説明してる時は、そんなこと一言も聞いてなかった気がする)


 いや待て。

 そもそもガーベはゴブリン達に言っただろうか。


 リーシャは今、オーガと戦っているから手一杯。

 襲うなら今なんだ。


 そう伝えただろうか。

 答えは否だ。


(リーシャが戦っている相手がオーガだとは伝えてない! ただ取り込み中だとしか言っていなかった気がする!)


 結果、ゴブリン達は村に自分たちの宿敵がいるのを知らなかった。

 知らずに村に行った。


 そして、村でその宿敵——オーガとバッティングして、リーシャそっちのけで戦いが始まってしまったに違いない。


(俺のせい、なのか?)


 ゴブリン達が。

 初めての友達を殺したのは。


「俺、なのか?」

 

「はい! ガーベさんです! ガーベさんのおかげで、この村は救われたんです! 英雄ですよ、ガーべさん!!」


 そんなリーシャの言葉が、ガーべの心を木っ端微塵に打ち砕く。

 もう嫌だ。今すぐ布団に駆け込んでずっと眠っていたい。

 この世界はどんなに頑張っても決して——。


「にしてもくっせぇなぁ! おい、ゴブリンとオーガの死体、早く片付けようぜ」


 と、不意に聞こえてくる村人達の声。

 奴はゴブリン達の死体をまるでゴミの様に蹴ると、村の1箇所に集めている。

 言葉からして燃やすなりするつもりに違いない。


「……」


 ダメだ。

 立ち止まれない。


 ガーベが立ち止まれば、ゴブリン達は無駄死にだ。

 そんなことはさせない。


(ここで折れたりなんかしない。俺は天国で見ているに違いないゴブリン達のために、絶対にリーシャをめちゃくちゃにする)


 そして、その姿を配信する。

 天国にマジックチューブがあるのかは知らない。

 けれど、絶対にやってみせる。


「これは……生涯最初で最後の友であるお前達への鎮魂歌だ」

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