4日目・平凡なのが良いんです?
「スペックって、基礎能力的な奴でしょうか」
正面に座るクロが言う。
声のトーンが少し上がっているあたり興味がある話題のようだ。
「そうですそうです。見た目、体の強さ、運気等を細かく設定していきます」
「おー! それは心惹かれますね!」
(かなり楽しそうだ。これなら前向きに考えてくれるかも)
「ひとまず種族は人間に仮決めしておきましょう。パラメータを決めた後は、たとえ他の種に変えたとしても自動で補正してくれます」
「はえー、便利ですねー」
「最後にやっぱり変えたいという方も意外と少なくないそうなので」
コンソールを操作しながら述べる。
伝聞調に言ったのは、タンサはそこまで話が進んだ経験が無いからだった。
「各種パラメーターに振れる値は決まってますし、逆に平均より低くすれば他のパラメーターに振ることも出来ます。まずは何を重視しますか?」
「寿命で!」
小気味の良い声で少女が発する。
「……言うと思いました」
「お、タンサさんもアタシのこと分かってきましたね」
「あんまり嬉しくないのは何故でしょう」
パラメーターを平均以下にすれば、その分他に割り当てることが出来る。
特に寿命は減らすことによる他の要素よりも多く値を得ることが出来た。
「ちなみにどこまで下げる気ですか?」
「普通の3分の1くらいで!」
ラーメンのトッピングをコールするような勢いで彼女が叫ぶ。
「あはは……、寿命を減らしたことによる他への割り当てはどうしますか?」
「全部運に振ってください」
これまた常識外れな考え方だ。
寿命を削ってまで自らの運を高めにいくなんて、余程前世の運気にコンプレックスがあるのだろう。
「これでアタシもやっと人並みになれます」
「え? 運の値は常人の三倍くらいありますよ」
「アタシの不幸はそれくらい強いのですよ」
「一体何と戦ってるんです?」
密かに彼女に生まれもった能力がないか調べてみる。
だが、そんなものは見当たらなかった。
「前世はそんなに良くないことが多かったんです?」
「もう酷いなんてものじゃないです。ビンゴは1度もカードに穴が空いたことがないですし、学校では毎日先生に当てられました!」
(じ、地味だな)
「道を歩けば鳥の糞を浴びることもしばしば。電車は大抵遅延しますし、買った電気製品は初期不良ばかりです」
「もしかして呪われてます?」
「または運が全く無いかのどちらかですよ」
気になり思わず前世の彼女のデータを調べてみる。
彼女の予想通り運気が極端に低かった。
「あれ?」
「どうしました?」
その代わりと言ってはなんだが、容姿の値が物凄く高い。
他のパラメーターを犠牲にしてまで、見た目に関わる項目が高かった。
どうやら前世は容姿に全振りしたようだ。
「いえ、何でも」
「そうですか。話は戻りますが、とにかく運を上げてください。こうなったら1つや2つのマイナス能力も許容します」
「と、言うと?」
「病気に掛かりやすいとか、水をかぶるとペンペン草になってしまうとか」
「まだ諦めてなかったんですか、ペンペン草」
「当然!」
彼女が胸を張って答える。
人間の目線からだと草木として生きることは大して辛くないと思うのだろうか。
(草木には草木の辛さがあると思うけど)
話がややこしくなることを恐れタンサは心の中で呟くだけにした。
「マイナス能力は確かに出来ますが、運というパラメーターに期待し過ぎではないですか?」
「と言うと?」
「運はあくまで運。本人にとっての本当に良いことに転ぶかどうかは分かりません」
「例えば」と、コンソールを操作しながら話を続けるタンサ。
「クロさんが運以外の能力全てを犠牲にして究極のラッキーを手に入れたとします」
「究極のラッキー」
「そして、クロさんは持ち前の幸運を用いて裕福な家庭に生まれました。最高のスタートでしょう」
「最高のスタート」
「ご飯は勝手に出てきますし、身の回りの世話にはお付きがいます。ダメ人間製造機ですね」
「ダメ人間製造機」
「そんな日常に突如隕石が襲来します。通常であればこれだけ高い運があれば直撃することはまずありません」
「急に隕石が降ってくる展開がまず無いのでは?」
「例えですから。しかしクロさんは心の奥底で早死にを願っているので、運が隕石を引き寄せてしまうのです。何1つ不自由無くニート生活を満喫しているというのにです」
「言葉の節々にトゲを感じますが、なるほど」
首を縦に振り納得したような仕草を取るクロ。
「高過ぎる運は身を滅ぼすと」
「有り体に言えば」
「能力を考えるのも難しいですねー」
腕を組んでクロが「むぅ」と唸る。
「そこまで難しく考えずに、平均的なパラメーターで良いんじゃないでしょうか」
「え? でも人生が決まる大事なものですよね。そんな簡単に決めても」
「確かにこれも重要ですが、結局来世の話ですよ。自分であって自分ではない未来に縛られ過ぎては、前に進めるものも進めないでしょう」
「……一理ありますね」
体を傾けながら頷くクロ。
「結局人生なんて能力以上にどう考えて過ごすかですしね。最後に胸を張って送れれば100点ですよ」
「そういう考え方もアリか」
そう言って、彼女はふっと笑った。
「ところで、冷蔵庫で胸を潰されたアタシの人生はマイナス100点ですかね?」
突如放たれた冗談に、タンサは苦笑いを浮かべるしかなかった。
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