3日目・人間って微妙じゃないですか?

「人間以外の生き物に転生したいです」


 担当であるクロと出会って早3日。

 珍しく彼女の方から本題を切り出してきた。


 昨日の自分の行動が悪くなかったことの証明に他ならない。

 タンサは僅かに心が熱が生まれたのを感じた。


「人間以外というと、犬とか猫とかですか? ロボットやモンスター系といった変わり種もありますが」

「いえペンペン草に」

「ペンペン草!?」


 所謂いわゆるナズナと呼ばれ、北半球に広く分布している植物である。


「ペンペン草は春に花を咲かせて輝いた後、夏前には枯れていきます。そんな儚くとも光がある人生を送ろうと思って」

「死亡までのインターバルが延びたのは進歩ですね」

「ダメですか?」

「いえ、問題ないとは思いますが。しかし植物は転生難度が高く、クロさんが試験に合格出来るかどうかが心配で」

「試験!?」


 クロが裏声を上げる。

 どうやら希望さえすれば通っていると思っていたらしい。


「ちなみに難易度は?」

「クロさんの生前の世界で例えると弁護士になるくらいかと」

「むっず!? 世のペンペン草は難関国家試験にパスするくらい頭脳が良いんですね」

「ペンペン草に転生する前の話ですけどね」


 腕を組んで唸る彼女に今度はこちらから提案してみる。


「人間が嫌ならロボットとかどうですか? 意外と人気がありますよ」

「ロボットですか。半永久的に生きる可能性がある存在はアタシ的にちょっと」

「ですが、クロさんの一番の懸念であるはかなり解消されるかと」

「それはどうですかね?」

「と、言うと?」


 クロが人差し指を立て、諭すように言う。


「アタシのポンコツっぷりを舐めてもらっちゃ困りますよ」

「何でそんなに自慢気なんですかね」

「どれだけAI回路に溶け込もうがアタシはアタシ。何もないところで転ぶ自信はありますし、命令自体を理解出来ないことが多々あるかと」

「いやいやいや、でも機械ですよ。そんなスクラップ一直線になるようなことは流石に」

「それを可能とするのがアタシなのです」


 何故か胸を張って答えるクロ。

 能力の無さにこれだけ自信を持つ人間もそうはいないだろう。


「うーん、機械系が封じられるとなる、それこそあとは動物ですか。犬、猫なんてどうです? ポピュラーですが幅広い層に人気です」


 タンサが提案するなり、クロは僅かに上を向く。

 その様は自分が動物になった時をイメージしているようだった。


「だだっ広い高原を一人はしゃぎ回るアタシ」

「お、良いですね」

「まだ見知らぬ世界にワクワクしながら食べ物を求め森へ」

「その調子です!」

「そして補食されるアタシ。ああ無情」

「せめてもう少し抵抗しません?」


 これでは悲劇である。


「そうだ、猫。今度は猫にしましょう!」

「猫ですか」


 ほどいた腕を再度組み直すクロ。


「アタシは都会に住む一匹の黒猫。群れるのは好まない孤高の存在」

「急ブレーキを踏むのと同じくらい、エンジン掛かるのも早いですね」

「路地のゴミ箱を漁り、人間どもの食べ残しで今日もまたお腹を満たそうとする。しかし、残念ながら何時もの場所にゴミがない」

「いきなりきな臭くなってきましたが」

「ああ!? ゴミを出す料理店は既に潰れていたのだ。アタシは空腹のまま街を彷徨さまよい歩き、そして一人の人間と出会う」

「そして?」


(飼い猫になり幸せに暮らすのかな?)


「保健所に連れていかれ殺されるのでした。チャンチャン」

「あまりにも夢が無さすぎる!?」

「アタシのリアルラックではこんなもんですよ」

「妄想ぐらいもう少し幸せになりましょう。お願いですから」


「そんなこと言われたって」と、クロは肘をつき手に顎を乗せた。


「アタシの人生観的にはこれが正しいんです」


 彼女がきっぱりと言う。


 失敗だらけの人生を送ればこういう考えになってしまうのも、何となく理解出来た。

 タンサもどちらかといえば彼女側の存在なのだから。


「ボクもダメダメなので共感は出来ますが、あまり卑屈になってしまうのも考えものですよ。前世は前世。来世は来世と割り切りましょうよ」


 折角少しは前向きになったのだ。

 このまま腐るのは勿体無い。


「そうです! じゃあ一旦種族の話は止めて、スペックの話をしましょう!」

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