第27話 門
思ったよりも単純にここを攻略しようとし出したために簡単に対応ができた。
物量的な余裕からか、何か兵を減らさなければならない理由があったのかはわからないが、暁光だ。
クソ真面目に突っ込んでくる騎士達に向けて、エイジャの実をばら撒き、どんどんと無力化していく。
「意外に単調だな。兵をこれだけ大量に失っても一向に構わないという意思の強さがなせる技だろうか」
「あれはもしかしたら、別の方向から進行してくるために。こちらを惹きつけようとしているやもしれん」
「人族の記録にはなかったけど、魔族側から過去にあったの?」
ひどく的確な提案してきたので、過去に経験があるのか、どうか尋ねるとルイナはうなづいて肯定した。
かなりの回数侵攻されてきたことがあるので、やはり最初の壁で種の脅威にされされようとも、諦められなかった経験もあるらしい。
軽く構えているので苦労しているようなイメージがなかったが意外にも修羅場を潜ってきたようだ。
「魔族側から何度かある。あやつらは勘か何かが知らんが、気づくからな」
「多分だけど種の効果は反則に近いものだから、その状態でなぜ魔族の領土を侵略に行かないかって考えて、理由があることを勘繰って、そこから嗅ぎ付けたんじゃないかな」
砦を落とすためには、砦にいる兵の3倍の兵が居なければ成功しない。
このことは軍略に精通しているものならば、知っていて常識ということだが、人族では王族と軍師しか知らない。
だが魔族側では兵にいるのならば知っていて当たり前ということはただの知識であるため、おかしくはない。
「戦いばかりしておるせいで、どうしようもないことばかり賢しくなっていくな」
「しょうがないよ。生きる過程で嫌でも知識を得なければ、紙屑同然に消費されちゃうからね。誰も風が吹いたら飛ぶような身の上のまま生きてはいけないし」
「破天荒に生きとるように見える兵隊も世知辛いもんじゃの。まあ同情するが手加減はせんが」
ルイナが指示を出すと攻めてくる場所に目星をつけて先に待ち伏せするために、山ゴブリンたちが先行していく。
人族側は今回が初めてする試みであるため、十中八九そのまま罠にハマる可能性が高い。
このままいけばこちらが常に優勢のまま、人族には対処できるだろう。
ハロルドもばてている以上、今の人族でクリスに勝てるような強い駒は存在しないはずだ。
今の所の唯一の懸念は魔王軍が合流して、四方八方から物量で押されることだが、魔王軍幹部が敗れた今、まだ待機しているだろう魔族が上がっていくかどうかは怪しい。
最高戦力を失い、勇者という理不尽がいる人族とこれ以上戦いたくないというのが普通だ。
「魔族軍はこの状態で攻めてくると思う?」
「勝てる機が見込めるなら攻めてくるだろう。見込めなければずっと目を光らせてるだけで済むだろう」
「したたかだね。一方的にやられるかもしれずとも、この村を奪って反転攻勢に出ようとするなんて」
「こちらは侵略されている側だからな。肉をちぎられてもいいからハイエナを叩きのめしたいと思うのはしょうがないだろうさ。しかも侵略してくるそっちの国土には結界のせいでどう足掻いても入れないからな。いつも一方的に侵略を仕掛けられて疲弊するだけで全く旨味がないのだ。兵たちの貴様ら人族に対する恨み辛みも一入になっている」
損するだけだというのに、侵攻に対して対応し続けば、それだけヘイトも高まるのも当たり前か。
「虎視眈々と狙われているわけか。どっちも万規模の大隊持っている方よりもあくまで村単位ーー規模百くらいの方が狙いやすいだろうとそりゃ思うか」
「タイミングとしては門を開けられた時じゃろうな」
「流石にそこまで攻め込まれるほどのヘマをしないと思いたいけれど」
実質的に門が開けば、この村が崩壊することは避けられないし、乱戦になれば、私の命は風前の灯になる。
戦っている余波だけで絶命することもあり得る。
できればそれは避けたい。
門だけは絶対に死守しなければならないだろう。
「機動力のあるクリスはここに待機させて、ルイナは門の反対側で待機してくれるかな」
「いいが。そうなるとお主には門側を頼むことになるが」
「いいよ。こっち側は登り台があるしね」
ルイナに門とは反対側を頼んだのは、登り降りするための階段や昇降台がないから、私では壁の上から敵の様子が確認できないからだ。
私から見ればほとんどの兵士は私をワンパンできるような猛者なので、危険度で言えばどちらの門に行っても変わりはない。
「すまんな。魔法でなんとかできていたから、梯子や昇降台をつくらず、そのままにしておった」
「気にすることでもないし、いいよ」
ルイナは一言断りを入れると、壁に向けて飛んでいく」
遺物にもああいう移動系のものがあれば色々と勝手は違ったと思うが、武器系の遺物が大量にあったことであの天災のようなハロルドのスキルを凌げたので文句は言えない。
ルイナが動いたことで私も透明マントを被って、門の壁を裏手から登っていく。
頂上に至ると、こちらに向けて兵が押し寄せているのが見えた。
指揮をとっているのは見たことない男であり、おそらく団長ではない。
ハロルドが指揮をとっているかと思っていたので、意外だった。
門を正面から攻めるところなので、本命が門の反対側から来る連中だったとしても、こちらを囮にできることを放棄するようなことはしないはずだ。
反対側にいるものたちは誰かわからないが、あちら側に一極集中させているのはないと思う。
あちら側は門から一番遠い場所。
あくまで奇襲して気づかれずに潜入して意義のある場所で、目立つようなやり方をしても、門から離れているぶんこちら側から多くの被弾することになるだけだ。
門を至上命題とするなら下策中の下策。
あれほど貪欲に軍の報告書を読み解いていたハロルドがそんなことをするはずがない。
来るとすればもっと別のところからだ。
「ダンジョンの入り口からか」
あそこならば、壁を越えることもなく、容易に内部に入ることができる。
元より入り口以外から入れるものではないが、あいにくハロルドは前回冠斬で地面を砕いて、下層のダンジョン内部を露出させている。
ハロルドならば村の近くで冠斬を使えば上層からすぐにダンジョンの入り口に戻れることは想像に難しくない。
だがどうしてハロルドにダンジョンの入り口が村の内部にあることがバレた。
もしかして先ほど、ハロルドの冠斬を抑えるために大量の遺物を使ったからか。
あんなものくらいで、そこまで嗅ぎつけるとは。
「うおおおお!」
クリスに大至急ダンジョンの入り口で通せんぼするように命令を出すと同時に、ハロルドがダンジョンの入り口から跳躍してくる。
道中にいる山ゴブリンなど無視して、門に向けて遮二無二進んでいく。
それだけはさせるわけにはいかない
マジックバックから槍を取り出すと、ハロルドに向けて振るう。
槍はそのまままっすぐ飛んでいくと、不可思議な軌道を描いてハロルドの背後についていく。
「図に乗るなよ人族が!」
クリスが跳躍した状態から体を捻り、背後からハロルドの後頭部に向けて回し蹴りを放つ。
「お前の動きは先の戦いで見切った!」
ハロルドはノールックでそれをしゃがんで避けると、から打った周り蹴りが地面を砕け散らせる。
「くそ!」
クリスが臍を噛む一方で、割れた地面のかけらを踏み締めて、門に向けて跳躍する。
だが飛ぶ瞬間に槍がハロルドの肩に刺さった。
クリスの攻撃を避けたロスで、ギリギリ間に合ったようだ。
バランスを崩したハロルドはクリスと共にダンジョンの奈落に落ちていく。
ひとまずの危機は脱せたが、再びハロルドが上に上がっていくのは時間の問題だろう。
遺物を最大限活用して妨害もしくは抹殺しなければいけない。
透明マントを被ったまま奈落に向けて、足を進めていく。
飛び込む際にマジックバッグから本来の用途は攻撃の無力化であるされている盾を手に取ると、ダンジョンの床に接する前に展開して落下する衝撃を無力化する。
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