おバカにつける薬は御座いませんが惚れた腫れたに効くのはこちらです
第154話 「御社の経営理念に共感しまして」とか薄っぺらい模範解答より「理念は分かりませんが面白そうなので!」とかいうヤツの方が仕事出来そう
第154話 「御社の経営理念に共感しまして」とか薄っぺらい模範解答より「理念は分かりませんが面白そうなので!」とかいうヤツの方が仕事出来そう
『――それでは本日もお疲れ様でした。恐れ入りますが、
「私も今日は御買い物当番なので帰宅致します! お疲れ様でした!」
業務を終えて店を後にするアイちゃんとさくらに、まだ薬局に残っている俺と泉希は「お疲れ様」と手を振り返した。
アイちゃんは丁寧なお辞儀を、さくらは敬礼のように額に手を当て微笑み返すと、二人仲良く2階の事務所へ向かった。
「……ふうっ」
アイちゃん達の姿が見えなくなると同時、俺は大きく息を吐いて受付の椅子に座ると力無く天井を見上げた。
『
投げかけられた二度目の質問に俺はまたしても答えられず、視線を伏せて押し黙ってしまった。
そんな俺を見兼ねたか、佐江木社長は唐突にパンッと手を叩いて『この話はお終いにしましょう。今日はビジネスに来たわけじゃないんだから』と明るく笑って話題を変えてくれた。
そこから先のことはあまり覚えていない。社長とどんな話をしたのか、どんな料理を食べたのかも。
社長の気遣いが
その優しさに言いようの無い悔しさを覚えた。
答えられない自分が情けなかった。
見限られているようにさえ思えた。
対等じゃないと言われている気がした。
社会人としても経営者としても、事実として俺は彼女に劣っていた。
どんな会社だろうと企業理念や方針があるのに、俺には何もなかった。それを思い知らされた。
現実から逃げるようにオフクロから店を引き継いで、当たり前のように享受し日々を過ごしていた。
目標はあった。
この店を、
親父が借金を残して蒸発した為に俺は大学を辞めた。それは紛れもない事実。だが元より薬学部に未練は無かった。さくらとの約束を守れなかった俺にそんな資格はなかった。
だから俺はオフクロの店を継いだ。
でも入職してえ暫くすると、『大学中退』という経歴がコンプレックスになった。常に馬鹿にされている気がした。だからせめて「薬局を大きくしてやろう」と
だから『何故薬局を大きくしたいのか』『どんな店で在りたいのか』という根底が抜けていた。
根っこの無い樹が大きくなるはずもない。他の木に寄り掛かるだけの倒木に意味は無い。社長はそれを見抜いていたんだ。
『患者様ファースト』なんて謡っているけれど、本当にそう思っているのか。ただそう言わなきゃいけない気になっているだけじゃないのか。
世の中に出て普通の会社に勤めることが怖かっただけじゃないのか。
ただ自分に自信が無かっただけなのに、
従業員を理由に、自分を正当化しようとしていただけではないのか。
当時の俺はそんなことばかりが頭の中で渦を巻いていた。だけど今は――
――パコンッ。
と、その時。後頭部に何かが当たった。振り返って見れば、
「ちょっと馬鹿店長。もう業務終了なのに、なに一人で
データ入力業務を終えたのだろう、泉希は処方箋の束をレターケースに収めると俺の隣にある丸椅子に腰を降ろした。
「また悩み事?」
「ん……まぁ、な」
「この間の会食で、社長さんに何か言われたの?」
図星を突かれて一瞬戸惑うも、俺は顔を伏せたままコクリと頷いた。
「言われたっていうか、分かんねぇんだ」
「なにが?」
「この薬局のヴィジョン……在り方とか、経営理念みたいなものがさ」
俺は自分の手の平を見つめて力無く答えた。
「大学を辞めた俺には何も無いから、せめてこの店を大きくして自分の存在価値にしたかった。家族を捨てた親父を見返してやりたいとも思ってた。でも……この薬局をどんな姿にしたいかっていう目の前の目標が無かった」
机の上に置いた掌を握りしめて、俺は小刻みに肩を震わせた。そんな俺の姿に、泉希は「ふむ」と鼻息を吐いた。
「ねぇ、
「なんだ?」
「次の日曜日、私とデートしましょ!」
「……え?」
突然の提案に驚く俺に反して、泉希は薄い胸を張り自信満々と笑みを浮かべた。
-------【TIPS:泉希の服薬指導メモ】-------
佐江木社長はビジネスの話を終えると、ずっと羽鐘さんの……AIVISの事について尋ねていたみたいよ。どうやら人手不足の解消やヒヤリハット対策にAIVISの登用を考えているみたい。
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