第149話 会食っていうとちょっとお高価い和食をイメージするのは私だけですか?
「――あ~~、緊張する」
着慣れないスーツに身を包み、俺は薬局2階にある事務所の社長室(ただ書類が置いてあるだけの狭い部屋)で、冷や汗を浮かべていた。
なにを隠そう、今日はキングファーマシーの社長とお会いする日なのだ。お互いに仕事があるからと夕食を御一緒する流れなのだが……緊張でもう既にお腹が痛い。
とはいえ、いつまでもビビッているわけにもいかない。そろそろ
「はぁ〜」と深い溜息を吐きながら、俺は震える手でドアノブに手を掛けた。
「お待たせ、アイちゃん」
無理矢理に作った笑顔で休憩室に出ると、そこには俺と同じくスーツ姿のアイちゃんが待っていた。
相変わらずのナイスなバディに、俺の身体を覆う緊張が少しだけ薄まった。
「アイちゃんは準備できてる?」
『はい。問題ありません』
「ん。それじゃあ行こうか」
『はい。
ペコリと丁寧にお辞儀したアイちゃんと共に、俺は事務所を後にした。
御覧の通り、今日の会談にはアイちゃんが同行してくれることとなった。なぜアイちゃんかというと先日我が家で行われたすき焼きパーティーの際に、キングファーマシーの社長と面談することが話題に上がったからだ。
「キングファーマシーの社長さんとは、どんな話をする予定なの?」
と
どうやら泉希も『薬局運営についてアドバイスを貰える』という都合の良さに、いくらか疑問を感じていたようだ。
『では、会談には私も共に参りましょう』
すると今度はアイちゃんが提案してくれた。
相手の社長がAIVISの運用を考えてあるのであれば、向こうも実物を見たいだろうということ。アイちゃんが同行することで、話に信憑性と信頼性が増すという考えだ。
会食の席に食事を必要としないアイちゃんを連れて行くのもどうかと思ったが、彼女の言うことには一理ある。それになにより俺が助かる。たゆね様が居るとはいえ、独りでは心細いからな。
「じゃあ、お願いするよアイちゃん。たゆね様には俺から言っておくね」
『畏まりました、朝日向店長』
そうしてアイちゃん同伴となった。
余談だが、会食を『ちょっとリッチな食事会』と勘違いしたさくらが「私もお供します!」とヨダレを垂らして手を挙げた。
だけどもちろん断った。初対面の相手が居る仕事の場で、今日みたくドカ食いされても困るからな。
そんなこんなで、俺はアイちゃんと二人、隣県にある繁華街へと赴いた。着慣れないスーツ姿で賑々しい場所を歩くのは緊張する。
迷路のような地下街に怯えていると、アイちゃんが的確にナビゲーションをしてくれた。一緒に来てくれて本当に助かった。
「やあ、店長さん。時間ピッタリだね」
そうしてアイちゃん先導のもと、俺たちは小洒落たカフェに到着した。
やけに小さいテーブル席から、たゆね様が笑顔で手を振っている。いつも私服姿なのに、今日は俺達と同じくスーツ姿だ。
「お疲れ様です、たゆね様。今日は忙しい中、段取を有難うございます」
「なんのなんの、こちらこそ」
「あちらの社長さんとはどこで待ち合わせを?」
「お店の方に直接来るみたいだね。今回はホストもゲストと無いイーブンな関係だけど、念のため少し早めに行ってお迎えしようか」
「わかりました。……ところでたゆね様」
「なに?」
「そのお店、一人おいくら万円ですか」
鬼気迫る様相で迫る俺に、たゆね様は呆れたような引き笑いを浮かべた。
◇◇◇
「――ここが予約した店だよ」
言いながら、たゆね様は小さなビルを指差した。
繁華街から一駅ほど離れた場所にあるオフィス街へ案内されてみれば、そこはこじんまりとした和食料理店だった。
社長との会談だから、てっきりホテルのフレンチや広い庭のある料亭かと思ったが……この規模の店なら寒風吹き
どのみち今日はたゆね様の奢りだけど。
「それで、相手の社長様はいつお見えに?」
「ついさっき貰ったメッセージだと、もうすぐ来るみたいなんだが……お、噂をすれば何とやら」
軽妙に笑うたゆね様の視線を追うと、俺たちのすぐ手前に一台のタクシーが停車した。まさか社長様はコレで来たのか。なんというヴルジョアだ。
住む世界の差を見せつけられたようで、緊張感が再び俺の全身を包む。
そして次の瞬間。タクシーの後部座席から現れた姿に、俺は驚きのあまり言葉を失ってしまった。
-------【TIPS:泉希の服薬指導メモ】-------
悠陽だけ美味しい物を食べに行くと勘違いして怒る火乃香ちゃんと、この日の仕事終わりに焼肉を食べに行ったわ。もちろん私の驕りよ! 桜葉さんも一緒だったから食べ放題にしたけど……。
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