第144話 高田里穂が誰か分からない人は是非いちど仮面ライダーOOOを御覧になってください
「――んじゃあ、行ってきまーす」
白衣姿のまま自転車に跨り、俺は錆の浮かぶペダルを漕ぎ出した。
先にも説明したが、
ちなみに先方の薬局が市外など遠方に無い限り、分譲業務はアイちゃんや
というのも、薬局の開店時間中に薬剤師が居ないのは基本的にNGなので、
店や地域によっては『分譲は薬剤師が行かないとダメ』なんていう所もあるみたいだけど、ウチにはそんな人財的余裕ないからな。
もっとも、さくらが一人で薬局に残ったところでまだアレなんだけど……。
ついでに言うと、この自転車も分譲用に購入した代物だ。まれに遠方の電車へ分譲に行くこともあるのだが、わずか数百円の薬を買いに行くために電車やバスを使うのはおかしな話だからな。
「おっ、ここだ此処だ」
そうして自転車を走らせること10分弱。俺は目的のキングファーマシーに到着した。
たゆね様やさくらから聞いた話では、この店舗が本店になるらしい。鮮やかな緑色が映える、清潔感が漂う店構えだ。
「お隣は……つがみ小児科か」
キングファーマシーと併設するように並び立つ2階建ての診療所。こちらも綺麗な雰囲気の
つがみ先生は人気の小児科医だと聞いていたが、今は休診時間中なのだろう。患者様らしき人影は見受けられない。薬を頂くには絶好のタイミングだ。
俺は息を整え「コホン」と一つ咳払いして、緊張感と共にキングファーマシーのドアを開けた。
「失礼しま――」
だがその瞬間、俺は凍り付いたように身体の動きを止めてしまった。
「あ、こんにちはっ」
なにせ受付で俺を出迎えてくれたのは、とんでもなく美人なお姉さんなのだから。
服装から察するに事務職員だろう。まるで後光が差しているかのようにキラキラと輝いて見えた。
背は高くスラリとしていて、一目で美人と分かる佇まい。目はパッチリと大きく、その眼差しからは優しさと安心感が伝わってくる。
年齢は俺より少し上だろうか。芸能人で例えるなら、若い頃の
だけど頬っぺたが赤らんでいるあたりを見ると、意外に引っ込み思案な性格なのかもしれない。大人びた雰囲気の中にもどこかあどけなさが残って見えるのはそのせいか。
「お、お願いします」
「はい。お預かりしますね」
緊張と興奮で台帳を差し出す手が震える。そんな俺に反し、お姉さんは所作の一つ一つが丁寧だ。
柔和な笑顔も一瞬として崩れない。俺はいま女神を前にしているのか。
言葉遣いや仕草で言えばウチのアイちゃんもそうだし、さくらも常に笑顔を崩さない。だがあの二人とは……なんというかベクトルが違う。
「お待たせしましたっ。こちらが御依頼いただいたお薬になります。錠数と成分量に間違いないか、お確かめくださいっ」
透明なチャック袋に入れられた錠剤。同時にお預けした台帳も返された。
指も綺麗でシミのひとつもない。こんな
かと思いきや、あろうことか彼女の左手に指輪は輝いていなかった。
「どうかされました?」
「あ、い、いえ! なんでも……」
小首を傾げて不思議そうにみつめながら、それでも尚お姉さんは笑顔を崩さない。反して俺は顔を赤く染め上げ狼狽える。まさか『結婚されてないのかと思って』なんて言える筈もない。
「いや、えっと……あ、め、珍しいお名前だなーと思って!」
偶然目に付いた彼女の名札に、俺はしどろもどろの理由をこじ付けた。
だが彼女は疑うこともなく、「なるほど」と照れ臭そうに微笑む。
「そうなんです。私の苗字、日本でも千人くらいしか居ないみたいで。実際私も、同じ苗字は家族や親戚でしか見たことないんですっ」
「へー、そうなんですか。えーと……『おじょう』さんて呼ぶんですか?」
何の気なく名札の漢字を読み上げると、お姉さんは一瞬驚いたようだった。だけどすぐまた口元に笑みを浮かべて、
「いいえ、
にっこり。トドメの一撃みたく放たれた微笑み。
まさに女神が天使を思わせる崇高な姿に、俺は
そうして半ば放心状態のままキングファーマシーを後にした俺が、『あちらの社長の人柄を知るために出向いた』という本来の目的を思い出したのは、自分の店に戻って暫く後のことだった……。
-------【TIPS:泉希の服薬指導メモ】-------
今回登場した小篠さんは、『最近雇ったウチの事務心が可愛くて仕方ない』という謎の小説もどきに登場する人物よ。昔はつがみ小児科に勤務していたけれど、御縁があって現在はキングファーマシーに所属しているみたい。
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