第103話 電子マネーを使うようになって小銭を持たなくなったのに本気で喉が渇いた時に限って現金オンリーの自販機
「――じゃあ、私達は帰るから」
「悪いな、さくらの面倒見てもらって」
「仕方ないじゃない。他に方法も無いし」
「お世話になります、
アパートの玄関先で風呂敷袋とキャリーケースを抱えながら、さくらは屈託ない笑顔で
結論から言うと、さくらは泉希の家に泊まらせてもらうことになった。彼女は最初ウチに泊まるつもりだったが、泉希と
とはいえ漫画喫茶へ追い返すのは流石に可哀想だ。そこで泉希はビジネスホテルに宿泊することを提案したが、さくらの所持金はたったの396円。銀行口座も空っぽなのだとか。
どうやら薬学部の奨学金返済と一人暮らしの生活費。そこに記憶喪失の際の治療費や退去時の費用などが重なって、貯金は底をついたという。
「まだ知りあって間もない水城先生にお金を借りることなど出来ません!」
だがさくらも強情で、
しかしそういうことなら俺が金を貸そう。そう思って財布を取り出した瞬間、俺は火乃香に腕を鷲掴みにされた。
「
射殺さんばかりの形相で睨みつけてくる火乃香に、俺はスゴスゴと財布を仕舞った。
俺も火乃香も親の作った借金で苦労したから、たとえ少額であっても金銭貸借には抵抗があるのだろう。しっかりした
兎にも角にも、そうした話し合いを経た末にさくらは泉希の家に泊まらせてもらう事となった。
「ねぇ桜葉さん」
「なんでしょうか水城先生!」
「さっきの
「もちろんですとも!」
「あ、わたしも欲しい」
女子共がそんな会話をしていたけれど、俺は口を閉ざし気配を殺した。下手に茶々を入れて、また話が
そして時計の針が22時を回る寸前、泉希とさくらは
「悪いな火乃香、突然の来客で。泉希とさくらの分まで晩飯作らせちまって」
「別に」
プイとソッポを向いて答え、洗い物を終えた火乃香は風呂を沸かし始めた。
「何か怒ってるのか?」
「別に、怒ってなんかない」
言いながら火乃香は眉根を寄せて湯沸かしボタンを押した。かと思えばシュンと眉尻下げて、悲しそうに手元を見つめる。
「……本当は今日、兄貴と二人で
ポツリ、細い声で火乃香が漏らした。そういえば今日の晩飯は「腕によりをかける」と言ってっけ。悪い事をしちまった。
「すまん火乃香。お詫びに今度の日曜日、二人で美味いものでも食いに行こう」
「本当?」
「
「二人きりで?」
「もちろん」
「じゃあ、約束」
火乃香は嬉しそうに笑って、俺の前に小指を差し出した。
「指切りか」
指切りなんて最後にしたのは
「嘘吐いたら、桜葉さんて
「それだけは勘弁してください!」
俺が叫ぶと同時に指を離して、火乃香は飛び掛かるように俺へ抱きついた。引き離すのも悪い気がしてそのまま彼女の長い髪を撫でてやった。
しばらくして満足したのか、火乃香は鼻歌交じりに入浴の準備を始めた。どうやら機嫌を直してくれたようだ。
――ヴ―ッ、ヴーッ……。
その時、ポケットの携帯電話がバイブした。見れば泉希からの着信だ。こんな時間に一体何事だろう。俺は首を傾げながら通話アイコンをタップした。
「もしもし?」
-------【TIPS:泉希の服薬指導メモ】-------
薬局は他の業界と違ってまだ新規参入の余地が若干あるわ。だけど大手が買収を繰り返して店舗拡大を図っているのも事実よ。
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