第102話 たとえ子には厳しくとも孫には優しいお祖母ちゃんが好き
「そういえばさくら、お前さっき実家を追い出されたって言ってたよな」
マグカップの珈琲を飲みながら、俺はふとさくらに尋ねた。ちなみにこれはウチで淹れたものだ。もう缶珈琲を買いに行ってもらう必要はないからな。
「はい! そういうことになります!」
「じゃあ、実家には行ったのか」
「もちろんですとも! 先輩の薬局で働くために東京から出てきたとはいえ、まずは実家に挨拶をと思いまして! 実家の記憶などありませんが!」
あっけらかんと笑いながら、さくらもマグカップを傾けた。なお俺はミルクオンリーのノンシュガーで
「実家を追い出された理由は?」
「はい! 御実家に居られたお婆様が『以前とは別人みたいで気持ちが悪い』『私に黙って旅行に行くからそんな目に合うんだ』とお怒りになられて!」
「そっ……それは流石にちょっと酷いわね。貴女も辛かったでしょうに」
「とんでもありません! 以前の私はとても消極的な人物だったようですから、今の私が別人のように思えるのも当然でしょう!」
明かに引いている泉希と反対に、当人であるさくらは気にも留めていない様子だ。
「そういえば、さくらン家の
「そうなのですか!」
「ああ。毒親ってわけじゃないけど、さくらが自分の言う通りにしなかったり自分のイメージ通りにならないとキレてたらしい。だからって追い出すのはやり過ぎだとも思うけど」
「はっはっは! 記憶が無いので
腰に両手を当て胸を張り、さくらは案の定高らかと笑ってみせた。昔はちょっとしたことで落ち込んでいたのに、人は変わるものだな。
「親御さんは何て仰ってるの?」
「居ませんでした!」
「え?」
「ああ、さくらの御両親は冒険家だか研究家だかで海外を飛び回ってるらしくてな。昔からほとんど家に居なかったんだよ」
「そういうことね」
言葉足らずのさくらをフォローすると、泉希は安心したように胸を撫で下ろした。「両親が居ない」と聞けば普通は亡くなったものと思うだろうからな。
「連絡はとっていないの?」
「そのようで! まあ、便りが無いのは便秘な証拠と言いますし!」
「それを言うなら元気な証拠だろ」
「それです!」
恥ずかし気もなく揚々と、さくらは両手にピストルサインを作って俺に向けた。
「まあ貴女がそれで良いなら何も言わないけど、なかなかハードな人生ね」
「はっはっは! それほどでもありません!」
「でもよく一人暮らしなんて出来たな」
「はい! どうやらお祖母様は、私が東京で一人暮らしをしていたこともお気に召していなかったようなのです!」
「なるほど。それも勘当された理由のひとつか」
「いえ! お祖母さまは歓喜されたのではなくお怒りになられておられました!」
「……」
たぶん『勘当』と『感動』を間違えているのだろう。だが俺も泉希も敢えてツッコまなかった。
「ところで、前はどこの薬局で働いてたの?」
「はい! キングファーマシーという薬局です!」
「キングファーマシーか。こっちにもいくつか店舗あるよな。まだ中規模のチェーンだと思ってたけ、関東にも進出してたんか」
「あそこの薬局、最近社長が代替わりしてどんどんM&Aで店舗拡大してるそうよ」
「そういや、さくら」
「なんでしょう!」
「今日はどこで寝泊まりするんだ。また漫画喫茶にでも行くのか」
「いえ! その予定はありません! もう所持金がありませんので!」
「じゃあどこに行くのよ」
「無論こちらで御厄介に!」
「「「……えっ?」」」
俺と泉希、そしてキッチンで洗い物をする火乃香は驚きに声をハモらせた。
-------【TIPS:泉希の服薬指導メモ】-------
あとで聞いた話だけど、桜葉さんが薬剤師を目指すと知った時にも御婆様は猛反対したそうよ。女性が手に職つけることを嫌悪していたらしいわ。
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