おバカにつける薬は御座いませんが惚れた腫れたに効くのはこちらです
第98話 「さくら」とか「たゆね」とか平仮名の名前って可愛くて好きなんだけど文章読みにくくならないか心配……あ、元から読みにくい文章だから要らん心配か
第98話 「さくら」とか「たゆね」とか平仮名の名前って可愛くて好きなんだけど文章読みにくくならないか心配……あ、元から読みにくい文章だから要らん心配か
「――いやはや、助かりました先輩!」
桜咲くような満開の笑顔で、さくらはお手本みたく手を合わせた。子供みたく口元に米粒をつける彼女の前には、空のドンブリと皿が置かれている。
「まさか腹減って倒れるヤツが居るとはな……」
使い慣れた自宅のローテーブルに肘を付きながら、俺は照れ笑いを浮かべるさくらに呆れていた。
さきほど薬局でさくらが倒れたのは、空腹が原因だったらしい。漫画みたいな話だけれど、俺は近くのコンビニでオニギリを買って食わせてやった。
さくらは一瞬でオニギリを平らげた。だが「足りない」「温かいご飯が食べたい」と言うので、仕方なくウチに連れてきたという次第だ。
「大変美味しいお食事でした! 先輩が御作りになられたのですか!?」
「いや、作ったのは俺の
行儀よく茶を啜るさくらに、俺は仏頂面で隣に座る
晩飯の用意をしてくれていた火乃香は、俺が肩に抱えるさくらを見て驚いていた。傍から見れば死体を運んでいるみたいだろうからな。
「なんと! 先輩にご兄妹が居られたとは!」
「高校の時は居なかったよ。つい最近出来た義理の妹だ。火乃香っていうんだ」
「なるほど! よく分かりませんが、美味しい御飯を有難うございました! 改めまして
「……どうも」
深々と頭を下げるさくらに反して、火乃香はムスッと視線を逸らし会釈すらしない。コミュ障ってわけでもないだろうに。
「恐れ入りますがお手洗いをお借りしても!?」
「ああ。部屋出てすぐ右だ」
「ありがとうございます!」
やはり丁寧なお辞儀で立ち上がり、さくらは堂々とトイレに入った。その直後、火乃香が俺の方に顔を寄せてくる。
「ねぇ兄貴。あの
「言っただろ。俺の高校時代の後輩。そんでウチの求人を見て来た薬剤師だ」
「そうじゃなくて、なんでウチで晩御飯食べてるのか聞いてるの!」
「仕方ないだろ。俺達の目の前で腹減って倒れられたんだから。なあ
「……私に振らないでよ」
同じくローテーブルの一角に座りながら、茶を啜る泉希がジト目で答えた。
「お腹が空いて倒れるとか、そんな薬剤師いる訳ないでしょ。それに――」
言いながら火乃香はチラと部屋の隅を見た。そこには昔ながらの風呂敷包と、大型のキャリーケースが。まるで引越しか夜逃げのような荷物量だが、あれら全てがさくらの所持品である。
流石にさくらと一緒にあの大量の荷物は抱えられないので、泉希に手伝ってもらった次第だ。何故か晩飯も一緒に食うことになったけど。
「今どき風呂敷袋っていうのも意味わかんないけど、あれ絶対ワケアリじゃん」
「風呂敷袋どうこうは置いとくとして、確かに面接に来る荷物量では無いよな」
三者一様に怪訝な顔を作って、狭い部屋隅に置かれているさくらの荷物を睨む。
「いやー、助かりました!
そんな俺達の視線など気にも留めず、スッキリとした様子でさくらは卓に戻った。
「ねえ、桜葉さん」
「はい! なんでしょうか!」
「貴女、家はどこなの? もう遅いし帰った方が良いんじゃない」
「それは出来ません!」
「どうしてよ」
「前の薬局を辞めた際にアパートも引き払ってきたからです!」
大きな胸を張りながら、さくらは自信満々と笑って答えた。
「じゃあお前、次が決まってないのに仕事を辞めてきたのか?」
「いえ! 先輩の薬局で働くと決めています!」
「そういう意味じゃねーよ」
拳を握ってガッツポーズみたく答えるさくらに、俺は
「もしかして貴女、ウチで働くつもりで前の会社を辞めてきたの?」
「はい!」
またなんというアドベンチャーな。でもこれだけの熱意を見せてくれるのは、雇う側としては悪い気はしないな。ちょっと引くけど。
「前の職場って、どこにあるんだ」
「東京です!」
「じゃあ今はホテル暮らし?」
「いえ! 漫画喫茶で寝泊まりしています!」
「いや、お前
「当初は私もそう考えていたのですが、残念ながら家を追い出されまして!」
「追い出されたって、何やったんだよお前」
苦笑いで問い返すと、さくらは照れ臭そうにポニーテールを揺らしてはにかんだ。
「実を言うと私、記憶喪失のようで!」
-------【TIPS:泉希の服薬指導メモ】-------
絶食後に一気に固形物を食べるのは消火に良くないから、本当はスープやお粥などで徐々に胃を慣らしていく方が良いわ。
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