第97話 明るく元気で笑顔が素敵って、もうそれだけで魅力的

 「――もしかしてお前、さくらか?」

「はい! そのさくらです! 朝日向あさひな先輩!」


咲き誇る花のような笑顔を浮かべて、少女はポニーテールを揺らし大きく頷いた。


「いやぁ~、久しぶりだなさくら! 高校生の時以来か……随分と雰囲気変わったから気付かなかった。お前いつも黒縁のデカい眼鏡かけてただろ」

「はい! ある日を境に視力が良くなりまして!」

「それになんだか性格キャラも明るくなったな。昔は消極的で大人しい感じだったのに」

「はい! ある日を境に気分が軽くなりまして!」

「おまけに喋り方も元気になって。昔はボソボソ声だったのにな」

「はい! ある日を境に声が――」

「……もういいわよ」


似たような返しをするさくらに、泉希みずきは厳めしい顔で会話を断ち切った。そうしてその鋭い視線のまま隣に立つを睨み付けた。


 「恋人って、つまり元カノってことよね。いくら見た目が変わったからって、昔好きだった女のことを忘れるなんて……」

「いや知らん知らん。さくらとは高校が一緒なだけで、付き合うとかはなかったぞ」

「嘘ばっかり。いいわよ私に気を使わなくても」

「嘘じゃねーって」

「フンッ! どうせまた調子の良いこと言って、女をたぶらかしてたんでしょ」

「そんなスキルあるなら、とっくの昔にお前と結婚しとるわ。少なくとも、俺が結婚したいと思った女はお前だけだよ」

「ちょっ……もうっ、本当に馬鹿なんだからっ」


などと言いつつ泉希は満更でもない様子で俺の肩を引っ叩いた。もう少し加減を覚えてほしいが。


 「なななんと! つまり先輩は私とその方で二股を掛けておられたのですか!」

「掛けとらん掛けとらん。お前とは1度も恋人になったことねーよ。しかし――」


オーバーリアクションに全身を使ってさくらは驚きを表した。おかげで彼女の大きな胸が、プルンと柔く上下に揺れる。


「大きくなったな。偉いぞさくら」

「はい! 先輩は胸の大きな女性が好きと学生時代に聞いていたようなので!」


春を思わせる爛漫らんまんの笑顔で答えるさくらに反して、泉希はギロリと睨みながら俺の背中の肉をつねった。


「と……ところでお前、何しに来たんだよ。それもこんな時間に突然と」

「はい! 実を言うと私、こちらの求人広告を拝見致しまして!」


まるで面接みたくハキハキと答えながら、さくらは一枚の用紙を取り出した。見ればウチが出している求人広告ではないか。


 「是非とも私を雇って下さい!」

「雇って下さいって言っても貴女、これは薬剤師の求人募集よ。残念だけれど薬剤師は国家資格が無いと働けないのよ」

「はい! 知っています!」

「え、じゃあどうして?」

「何を隠そう私、薬剤師になったようで!」


今度は卒業式に渡される黒い筒を取り出して、1枚の賞状を引っ張り出した。なるほど、確かに薬剤師であることは間違いないらしい。


「お前が薬剤師にねぇ……」

「はい! 先輩が薬学部に行くと聞いて、私も頑張って勉強したようです!」

「というかココ、かなり有名な薬科大やっかだいよね」

「はい! どうやらそのようで!」


高く朗らかに笑うさくらに反して、泉希は信じられないと言った表情を浮かべる。確かに今のさくらの態度はとても薬剤師とは思えない剽軽ひょうきんさだ。


「まあでも、さくらは昔から頭が良かったからな。ウチとしても渡りに船だし、一度面接するか」

「ありがとうございます!」

「ただこんな時間に直接来るのは止めろよ。せめて電話でアポとってからにしな」

「電話で林檎りんごが採れるのですか?! 実は私――」

「えっ?」


その瞬間、さくらはまるで人形のように前のめりに倒れこんだ。うつ伏せになった彼女は、ピクピクと体を痙攣けいれんさせて。


「さ……さくらああああ!!」




-------【TIPS:泉希の服薬指導メモ】-------


薬剤師を証明するために昔は表彰状のようなものを持参していたわ。では徐々にカード化されて携帯できるようになっているわ。

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