第54話 最近の子は進んでるっていうけど、今も昔もそんな変わらんだろ。知らんけど

 「――な、なにしてるんだお前! 風呂入るなら脱衣所に行って着替えなさい!」

「なに言ってるの。お風呂はまだいいって、さっき言ったでしょ」


顔を真っ赤に染め上げ声を荒らげる俺と対照的に、火乃香ほのかは冷めた口調で返しながら、も当たり前のように服を脱いでいく。

 気付けば俺の目の前に、飾り気に乏しい黒い下着が姿を現した。シルクを思わせる火乃香の綺麗な肌には良く映えているが。


 「ていうか、アンタも早く脱ぎなよ」


チラリと横目に向けられた視線。俺は逃げるように顔を逸らした。火乃香は惜しげもなく下着姿を晒し近付いてくる。


「ちょ、ちょっとお前、なにを……」


後退りするも直ぐに壁が背中へぶつかった。逃げ場を無くして、俺はその場にへたり込む。

 まるで獲物を追い込んだ獣のよう。火乃香は追い討ちをかけるよう迫り来る。

 狼狽する俺の目の前に、半裸の火乃香が四つの手を付いた。黒いブラジャーから覗く成長途中の谷間が俺の意識と視線を釘付けする。

 俺を視界に捉えたまま、火乃香は徐に自分の背中へ腕を回した。パツンとホックを外す音がして、俺の眼前に可愛らしい双丘と頂上に咲く桃色の花が姿を現す。煽情的かつ淫靡いんびなその姿に、俺の顔は一層と赤みを帯びて。


 「今日の御礼、するから。色々買って貰ったし、沢山食べさせてもらったから」

「いや、だからって、自分がなに言ってるか分かってんのか!?」

「当たり前でしょ。子供じゃないんだから」


やはり冷静に答えて、火乃香は膝を付けたままゆっくりと俺の太腿に手を伸ばした。

 ズボンの上から愛撫のように俺の足を撫でたかと思えば、白い指が徐々に鼠蹊部こかんへ迫ってくる。


 「アンタにはこれからも世話になるし、わたしの体で良ければ好きに使ってよ」


瑞々しい白い肌とギコちなく足を這う指先。淡々と放たれる冷たい声。相乗効果を成したそれらが、俺の脳味噌を沸騰させる。


 こんなことはいけない。俺は火乃香の兄で保護者になると決めたのだから。

 でも火乃香は誰の目から見ても美少女だ。それも現役女子高生。こんな機会は二度と無いだろう。

 アイちゃんほどではないけれど、胸もそこそこある。少なくとも泉希みずきよりは大きいはずだ。

 それに互いが合意していれば犯罪にはならないのでは。

 いや、何を考えているんだ俺は! 義理とはいえ火乃香は俺の妹だろうが!。


俺の頭の中で、本能と理性が小さな戦争を繰り広げられた。辛くも勝利を収めた理性軍に賞賛を送りつつ、俺は火乃香の肩を掴んだ。

 するとどうだろう。今まで気付かなかったけど、彼女の体が小刻みに震えているではないか。声や顔に出さないよう押し殺したその細動こそ、彼女の本心に思えてならなかった。


「……」


何も言わず俺は立ちあがると、奥の部屋にあるクローゼットを開いて、適当なシャツを火乃香に放り渡した。


 「なに、これ」

「『なに』じゃねーよ。いいからそれ着とけ」

「なんで? しないの?」


呆気に取られな様子の火乃香に、俺はわざとらしく大きな溜息で返すと、膝に抱いたシャツをひったくって強引に頭へ被せた。

 両腕を服の中に収めて頭だけ出す火乃香。そんな彼女の前に、俺はドカリと胡座あぐらかいて座る。


「もしかして、ずっとこんなことしてたのか」

「こんなことって?」

「その、いわゆるパパ活とか援助交際とか……もしかして親父がお前に何かしたのか?」


神妙な面持ちで俺が尋ねると、火乃香はブカブカのTシャツにくるまったまま左右に首を振った。


 「朝日向さんは普通に良い人だった。本当にお母さんの事が好きみたいだったし、わたしには手も触れなかった。パパ活も援交も本当に無い。ってか私、まだセックスすらしたことないし」

「だったら、なんでこんな事を?」

「だって、わたしは何も無いから」


Tシャツの袖にようやくと腕を通しながら、悲観でも卑下でもない声と表情で火乃香は答えた。

 

 「お金は無いし高価な物も持ってない。得意な事も愛嬌も無いから、体くらいでしかアンタに返せるものがないって思った」


不安そうに眉尻を下げた火乃香に、俺は「ふむ」と鼻から息を吐いて、彼女の頭に右手を置いた。


「いいか、よく聞け火乃香。火乃香はオフクロさんに生んでもらった時、何か御返ししたのか?」

「ううん、してない」

「じゃあ飯食わせてもらったり服買ってもらって、その度に御礼をしたのか?」

「それはしてた。御飯作ったりマッサージしたり。うち、ギブアンドテイクが家訓らしいから」

「……」


予想外の答えに一瞬声が失われるも、「コホン」と咳払いして気を取り直し微笑んでみせる。


「まあ色んな御家庭があると思うけど、俺はお前の兄貴だ。妹に何かしてやるのにイチイチ見返りなんて求めないよ。お前が笑顔でいてくれるれば、それ以上のことなんて無い。

 むしろお前がそんな格好で『御礼しなきゃ』なんて考えてる方が俺は悲しくなるし困っちまう。俺の所にいる間は、何も考えず気楽にしてりゃいい」

「……本当?」

本当ほんとホント」


黒く艶やかな火乃香の髪を、俺はぐしぐしと無造作に撫で回した。だが彼女は嫌がる素振りも見せず、俺の右手を静かに受け入れる。

 すると次の瞬間、火乃香は俺の胸板に自分の顔を押し当ててきた。


「火乃香?」

「その頭撫でるの、もっとして。わたしが『良い』って言うまで、ずっと」

「……了解」


顔を押し当て腰に腕を回し、火乃香は俺をぎゅっと抱き締める。そんな義妹の我儘に答えるべく、俺は再び彼女の頭を撫でた。

 今度は優しく、丁寧に。想いを指先に込めて髪をくように動かす。少しすると胸にじわりと熱い水が滲んで、嗚咽の声が漏れ出した。


 その声と熱い水がむまで、俺は何度となく義妹の頭を撫で続けた。


 俺が今、此処ここに居ることを伝えるように。




-------【TIPS:泉希の服薬指導メモ】-------


薬剤師をはじめ医療系は割と若い頃ヤンチャしてたという人も多いわ。女子なんかはギャルやオタクが多い印象ね。医療現場に清楚な女性なんて稀有よ!

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