第11話 朝起きて隣に見知らぬ美女が居たら普通怖いよね
「だ、誰だこの
俺の隣で穏やかに寝息を立てる美女。普通の男なら
もしかするとまだ夢の中に居るのだろうか。俺は手の甲で
だが何も変わらない。分かっていたけど、やはりこれは現実だ。視界にも見慣れたアパートの景色が飛び込んでくるばかり。
服は昨夜と全く同じ格好をしている。恐らく酔ったまま家に帰ってきて、そのままベッドへダイブしたのだろう。
(じゃあ、この人は……)
震える指で恐る恐ると布団を捲れば、そこには美女のあられもない姿……はなかった。きっちりと服を着ている。少しだけ残念に思いながらも、俺はほっと安堵に胸を撫で下ろした。
(それにしても……)
改めて見ると、本当に綺麗な
ミルクティーアッシュの髪は短く所々に跳ねているが、艶やかで絹糸のよう。目鼻立ちは整っていて寝顔にすら知性が漂っている。
布団から覗き見える手はスラリと伸びて、細身の
だけど、やっぱり見覚えがない。こんなに綺麗な人を俺が忘れるハズもない。
「本当、誰なんだこの
吸い込まれそうな彼女の寝顔。それを前に、思わず俺は手を伸ばした。
『おはようございます、店長』
その瞬間、アイちゃんの声が後ろから響いた。反射的に伸ばした手を引っ込め、勢いよく振り返れば、エプロン姿のアイちゃんが洗濯物を抱えている。
「お、おはよう……アイちゃん……」
呆ける俺に会釈して、アイちゃんはベランダへ出て洗濯物を干していく。あんなエプロン、俺の家には無かったはずだが。
「えと、なにしてるのアイちゃん?」
『昨夜いただいた御指示通り、お部屋の清掃と衣類の洗濯作業を実行中です』
「あ、そう……」
いつの間に俺はそんな指示を出したのか。というか何故にアイちゃんまで俺の家に居るのだろう。まるで深い霧に覆われているかのように、
「いつの間に掃除を?」
『はい。夜のうちに終えております』
「そうか……って、それじゃあアイちゃん寝てないんじゃないの?」
『はい。ですが、
淡々と言いながらアイちゃんはあっという間に洗濯を終えて、脱衣所に籠を戻した。小休止という事はその間に充電でもするするのだろうか。
「ところでさ、アイちゃん」
『はい』
「この女性は……
『覚えておられないのですか?』
アイちゃんの純粋な瞳に見つめられて、俺は杭を打たれたみたく胸の奥に激しい痛みを感じた。
◇◇◇
アイちゃんの説明によると、俺達は昨夜の22時頃に居酒屋を出たらしい。
だけど泉希は顔を真っ赤に染め上げ千鳥足という
とはいえ俺まで泉希の家に上がるのは
アイちゃん曰く、泉希は家に送り届けるとすぐに寝てしまったらしい。幸いにも泉希の部屋のドアはオートロック式だったので、書き置きだけ残し部屋を後にしたそうだ。そうして俺の居る立ち飲み屋へ向かったところ――
『――そちらの女性と楽しそうに飲んでおられ、意気投合されたらしく御招きになられた次第です』
「……」
アイちゃんに説明を受けながら、俺は自分の記憶を必死に辿る。けれど一向に思い出せない。
今まで酒を飲んで記憶を無くしたことなど一度もなかった。どころか二日酔いすらも
――ピコーン!
黙考する俺の意識を刺すように、携帯電話が受信を知らせた。恐る恐るとロック画面を開けば、ショートメッセージが届いている。泉希からだ。
<<昨夜は御馳走様。送ってくれてありがとう。
飾り気のない淡白な文字列はいかにも泉希らしい。俺は記憶に無いけれど、すいぶんと酔っ払っていたらしいからな。
『朝日向店長。珈琲をお淹れ致しました』
「ん、ありがとう」
携帯電話の画面を閉じて、俺はアイちゃんの淹れてくれた珈琲を口に含んだ。
「――ん……うう~ん……」
するとその深い香りに誘われたか、花の如く可憐な
振り返って見れば、ベッドの美女が気持ち良さそうに小さな欠伸をかまして背筋を伸ばしている。
焦りと驚きに声を失う俺と反して、美女は寝惚け
「やあ、おはよう」
まるで長年の連れ合いみたく、優しい笑みを浮かべてベッドに座る美女。俺は冷たい汗を滲ませ、苦笑いを返すことしか出来なかった……。
-------【TIPS:泉希の服薬指導メモ】-------
余談だけど、羽鐘さんが所属する派遣会社のHPを改めて確認してみたら『薬剤師型派遣』と記載されていたわ。てっきり『派遣型薬剤師』だと勘違いしてたから……ちょっと騙された気分ね。
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