第3話 派遣社員は絶世の美女
『お初お目に掛かります。SF派遣サービスより参りました、
一体全体どんな変わり者が来るかと思いきや、俺の目の前に現れたのは、絶世の美女だった。グレーのリクルートスーツに身を包み、挨拶や言葉遣いにも問題ない。どころか非の打ち所も無いレベルだ。
何より特筆すべきは、その容姿。
腰まで流れる栗色のストレートヘアは金属光沢のような
まるで絵画の中から飛び出したような美しさに、俺は思わず
『失礼いたしました。声が届いておりませんでしたでしょうか。私は――』
「あ……ああ、スミマセン! 今日からウチに来てくれた派遣薬剤師さんですよね! お待ちしておりました!」
慌てて声を裏返す俺とは打って変わり、派遣社員の羽鐘さんは落ち着いた会釈を返してくれた。
『恐れ入ります。失礼ですが、貴方は
「ああ、はい。そうです」
『有難うございます。改めましてSF派遣サービスより参りました
またまた深くお辞儀をしてくれる羽鐘さんに、俺も慌てて頭を下げた。
そのとき、僅かに開いたシャツの隙間から彼女の胸の谷間がチラッと見えた。俺の視線と意識は否応無く釘付けにされてしまう。
たわわに実った彼女の胸。そこに生まれる谷間はもはや神の深淵。滝のようにストンと落ちる泉希とはエライ違いだ。
目の前の光景を惜しみつつ頭を上げると、彼女も合わせるように姿勢を正す。やっぱり、美人だ。
「じ、じゃあ、事務所の方へご案内します」
『はい。お願い致します』
店のドアに施錠して、俺は事務所へ向かうべく踵を返した。だがその瞬間、俺はピタリを足を止める。
なにせ俺の目の前に、白衣を羽織る
「ちょっと……誰よ、その
引き攣った笑みを浮かべながら、泉希は俺の隣に立つ羽鐘さんを指差した。
無理もない。これほどナイスバディな美女を目の当たりにしたのだから。お胸が天保山(日本屈指の低山)の泉希にとっては尚のこと驚きだろう。
「ああ、こちらは派遣薬剤師の羽鐘さんだよ」
「えっ……あ、派遣社員さん?! そ……そっか。そうよね! 貴方に限ってそんなこと、絶対に有り得ないわよね!」
「何言ってんだお前は。いいから挨拶しなさい」
「あ、そうね。ごめんなさい。この店で管理薬剤師をしている
『
先程と同じように羽鐘さんが会釈をすれば、泉希は何故か「ほっ」と安堵の息を吐いて、控えすぎな胸を撫で下ろした。
「いや『一応』ってなんやねん。正真正銘、お前はこの朝日向調剤薬局の管理薬剤師だろーが」
「消去法的にね。私以外に従業員いないから」
「……せやな」
冷ややかな泉希の声が、浮足立つ俺の心を一気に消沈させる。俺はあからさまに肩を落として、羽鐘さんと共に事務所へ向かった。
ウチの薬局はマンションの1階部分にテナントを構えているから、店舗面積が極端に狭い。そのため同じマンションの一室を借りて、職員の着替えや休憩所として開放しているのだ。開放といっても、今は俺と泉希しか使っていないが。
部屋は一応と1DKの間取り。決して広くはないけど、事務所として使うには十分だろう。キッチンにはケトルや電子レンジがあるし、トイレやシャワーもある。災害時に備えてタオルなんかも常備しているから宿泊さえ可能だ。
「じゃあ、白衣はこれを使って下さい。洗い替えにもう一着お渡ししておきます」
『ありがとうございます』
「他に質問はありますか」
『いえ、問題ありません』
「それじゃあ、着替えて店の方に行きましょう」
『承知致しました』
言うが早いか、羽鐘さんは恥ずかし気もなくジャケットを脱いだ。カッターシャツ姿になるも、彼女は恥じらう様子もなく堂々としている。豊満な胸が真っ白なシャツを圧迫して。見てはいけないと知りつつ、俺はどうしても視線を逸らせなかった。
そうして白衣を羽織り胸元に名札を付けて、羽鐘さんは準備を終える。
「羽鐘さん、メモ帳は持ってますか? もしお持ちでなければお渡ししますけど」
『問題ありません。私に手記は不要です』
淡々とそう言って、羽鐘さんは俺の後に続いた。今までにもメモを取らない人は居たけれど、ここまで堂々と言い切る人は初めてだ。薬剤師だし記憶力には相当の自信があるのかもしれないな。
(きっと仕事も出来るんだろうなぁ~)
もしそうだとしたら、美人で仕事が出来ておまけにナイスバディ。盆と正月と夏休みが一度に来たようなメデたさだ。思わず口角も上がってしまう。
けれど、そんな俺のニヤケ面を吹き飛ばす程の秘密が彼女にあるだなんて……この時の俺は想像だにしていなかった。
-------【TIPS:泉希の服薬指導メモ】-------
調剤薬局には管理薬剤師という責任者がいて、店長や経営者とは違って薬剤師にしかなれないわ。薬局は管理薬剤師が居ないと運営できないの。
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