キャリーケース

野名紅里

キャリーケース

噴水のなほも固形を保ちたる

朝虹の日に譲らるるドレッサー

薔薇ひらききる内側を失くすほど

一口のゼリー童話に鳥の発つ

涼しさや海は地球の膜であり

水澄みて黒々弛む牛の腹

欲しがられ与へる嘘や吾亦紅

客人に洗ふ葡萄の艶めけり

傾いて案山子のどこか新しく

ひとりづつ渡る吊り橋文化の日

冬めいて異国のコイン大きくて

すましたる兎の髭の硬さかな

本当を混ぜつつ嘘の桜鍋

極月の静かなドアへ辿り着く

手袋や記憶にしては確かたる

猫の子にひとつ遊びを教へる指

ビー玉にいろよぢれをる夕桜

麗かや小さき背の負ふヴァイオリン

蜜蜂の羽音の少し未来めく

キャリーケース春日傘からはみ出して

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キャリーケース 野名紅里 @nonaakari0128

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