第2話 夏の空の下、私たちは自転車で風を切る。

 玄関の扉を開けるといまだ鳴きやまないせみが、灼熱地獄しゃくねつじごくとも言われそうな地面からの照り返しが一気に押し寄せてくる。


「暑っつ……」


 ハンカチでひたいからこぼれ落ちそうな汗をぬぐい、車庫に押し込んである自転車を取りだす。


 ガシャンとスタンドを上げサドルにまたがり、ペダルに足を掛ける。

 

 自転車をいで、学校方面へ進む。


 生暑い風の中にひんやりと冷たく、さらさら流れる風もある。季節は進んでいる。


 左側には伊豆いずの山々が、右側には河津かわづがわが景色が変わることなく流れていて、のどかで空気もきれいで、とても好きな町。


 春の季節になると河津かわづざくら満開まんかいに咲き誇る河津かわづがわは今は閑散としている。


 桜が顔を出すころには一年進級していて、大人に近づいていくものだといつも実感するのだ。


 ジャバジャバと川の水どうしがぶつかったり、石にぶつかったり、川の流れる音が涼しく感じて、ついペダルを漕ぐスピードを上げてしまう。


 風が、とても気持ちがいい。


 五分ほど漕ぐとあたしが通っている、河津かわづ第一高校だいいちこうこうに到着すると、すでに黒髪ロングの美人さんが立って待っていた。


「久しぶり~~!! 元気にしてた?」


 とてもきれいになっていた。驚いた。髪は凄く艶々つやつや。肌は大福みたいに白くてもちもちしてて……。背は少し低かった。あたしより二センチほど低いような感じ。


 とてもかっこいい服装だった。白のブラウスに黒色のスキニーのパンツ。そしてシンプルでキマっていた。


「久しぶり。元気そうで何より。私は元気だよ。それよりさ、先に連絡先交換しようよ」


 ああ、そうだった。あたしがスマホ買ってもらったのは、中学二年の時からだからスマホの連絡先知らなかったんだっけ。


 LINEで連絡先交換した。これでいつでも連絡が取れる。


「ねえっ これから海行かない? 河津浜かわづはま海水浴場かいすいよくじょうまだやってるし、そこで遊ぼうよ」


 夏といえばやっぱ海っしょ。海岸かいがん近いならなおさら。


「いいね。海の家まだやってるかな?」


 海の家かぁ……。やってたっけ?


「ゴメン……。海の家、わかんないや。現地で確認するしかなさそう」


 みふゆちゃんはふふふって笑って。


「それじゃあとりあえず行こっか」


「そうだね、暑いし。早く海行きたいしっ」


 と言って、ペダルに足を掛け学校から出発した。


 私たちの夏はまだ終わっていない。


 夏の空のした、私たちは自転車で風を切る。

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