第3話
「理由はわかった。でもやっぱり私、今すぐ結婚は出来ない」
「なんで?」
「だってまだ15歳よ? この地球では結婚出来ない年齢よ。私の親も許さないわ」
「……」
「それに私、今受験性なの! 行きたい高校があるの! その高校に受かるために勉強がんばってるのよ!」
なぜその学校に行きたいのかというと、ただ制服が可愛かったからだ。
それにもう一つの理由が、髪型、持ち物など、けっこう色々なことが自由な学校なのだ。それは自己責任を生徒自身に自覚させるのが目的らしい。だが偏差値が少し高い。オール4以上じゃないと受からない進学校だった。
だが
父と母は家の下でお弁当屋を経営している。この物価が上がるご時世に、お年寄りや低所得者のためにと値段を上げずにワンコイン弁当を頑張っていた。だから生活もいつもギリギリなのだ。
それに加え涼風には兄妹が下に3人もいた。一番上の長女としては親にこれ以上の負担をかけたくない。だから1年生から塾にも行かず頑張ってきたのだ。そのおかげで今学年で上から5番目の成績だ。この2年3ヶ月の努力を無駄にしたくない。
「高校ぐらいは出ないと親も悲しむわ」
本当はもっと夢があり大学も行きたいのだが、それは今は黙っておく。
「あと……」
「?」
「私、この地球から出たくない……」
まあこれが一番の理由だ。知らない宇宙に連れ去られたくない。親にもなんて言うのか? 黙っていけば、誘拐だ神隠しだと大騒ぎになるだろう。もし宇宙船なんか見られたら、ニュースや新聞、下手すればネットニュースにも『宇宙人に連れ去られた少女』と大きく取り上げられてしまうかもしれない。
それに絶対に親や兄妹は悲しむ。自分も親や妹、弟達とずっと離れ離れで暮らすのは嫌だ。
「だから結婚は無理です」
涼風は正座して拳を握り膝に置きラクアに訴える。ラクアといえば、腕組みをして目を瞑り、「んー」と何か考えているようだ。
――これなら諦めてくれるでしょ。
すると、何か結論を出したように「よし!」と頷き涼風を見る。
「分かった」
「ほんと? じゃあ結婚はなし――」
「すずが18歳になるまで待つ」
「いや、だから……待たなくていいんだって」
「それにすずがこの
「……はい?」
「それならすべて問題ないだろ?」
――いやいや、問題大ありなんですが!
そりゃあ、こんなイケメンと地球で結婚できるなら願ったりだ。
いや違う!
まだどんなやつなのかもまったく分かっていない。もしかしたらすごい束縛するタイプで、嫌なことがあったら暴力を振う最低人間かもしれない。それにラクアは宇宙人だ。根本的に考え方が違うかもしれない。突拍子もないことを言い出したり、しでかすかもしれない。そんな得体もしれない人物と一生を共にすることは出来ない。
「問題だらけよ!」
「なんで?」
「私、まだラクアのこと全然知らないのよ? それに普通順序が違うでしょ!」
「順序?」
「普通、お互いの性格を知ってから好きになって、お付き合いして、2人でデートをして、手を繋いで――」
そこで涼風は言い
「あー! だからー! 私はちゃんと好きになった人としかおつき合いや結婚はしたくないの!」
顔を赤らめてラクアに有無を言わさぬ勢いで言う。するとラクアは笑顔で応える。
「わかった」
「え?」
「すずがそうしたいなら、まずお互い知ることから始めよう」
「いいの?」
まさかあっさりラクアがいいと言うとは思わなかったので、涼風は反対に驚く。
「ああ。どうせ18歳まで結婚出来ないんだ。まだ3年もある。ならそれまでにすずが俺のこと好きになればいいってことだろ?」
確かにそう言ったのは自分だ。だが面と向かって言われると照れてしまう。なんてことを自分は言ってしまったのかと羞恥心にかられ顔が茹で蛸状態に真っ赤になりながら目線を下にむける。
「まあ……そうね……」
「わかった」
ラクアは立ち上がる。どうしたのかと自然と顔を上げて見る涼風にラクアは笑顔を見せる。朝日がラクアを背中から照らし、顔は暗いが、綺麗な金色の双眸だけが光り目が離せなくなってしまった。
「じゃあそのように動かなくてはいけないから、俺はまず帰る」
「あ、うん」
するとラクアは入って来た窓のサッシに足をかけた。そこでどうやって窓から入って来たのかと疑問が沸く。ここは2階で登ってこれる場所ではないのだ。
そんな涼風の心配をよそにラクアは、
「じゃあまたなーすず」
と言って窓からとび降りた。
「ええええー!」
涼風はばっと立ち上がると窓の外の下を見る。すると、何事もなかったようにラクアが下から見あげ、涼風に涼しい顔をして手を振っていた。
「うそ……なんともないの?」
驚いて見ていると、ラクアはばっと2メートルはある塀に一瞬で飛びのると、そのまま飛ぶように家の屋根に上がり、飛ぶように去って行った。
「なんてジャンプ力なの……忍者?」
見た目は変わらないが、身体能力がまったく違うようだ。
涼風は部屋へ戻りベッドに座るとそのまま後ろに倒れ寝転ぶ。そして時計を見れば6時半だ。
朝6時くらいにラクアはここに来たことになる。
「朝早すぎでしょ」
そして大の字になり、天井を見て考える。
「これからどうなるんだろう……」
この調子では18歳になったら結婚しなくてはならない。そんなの絶対に御免だ。
「どうしよう……」
すると下から母親の涼風を呼ぶ声が聞こえてきた。
「すずー! 朝よー! 起きなさい!」
「はーい!」
――今考えていても仕方ない。
ラクアも親に話すために戻ったのだろう。なら親は許すはずがない。3年も結婚を先伸ばし、住む場所もまったく違う遠い場所になるのだ。親なら絶対に反対するはずだ。
「もう来ることはないわね」
涼風は今あったことをなかったことにすることにした。
だが、そんな涼風の考えはすぐに打ち砕かされることになったのだった。
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