第2話




「で、なんで宇宙人のラクアが私と結婚したいわけ?」

「10年前に約束したから」


 いつの間にかラクアは床にあぐらを掻き座り、涼風すずかぜもラクアと対面するように床に座っていた。


「そんな10年前のことなんて気にしなくていいのに。私も覚えてないし、ラクアだって好きでもない人と結婚するなんて嫌でしょ? なかったことにしたら?」


 幼稚園の時の約束なんて意味のないことだ。だがラクアは首を横に振る。


「それは出来ない」

「なんで?」

「だって契りを結んだから」

「ちぎり? 契約みたいなもの?」

「ああ。契りを結んだ相手とはどんな理由があろうと結婚しなくてはならない。他の相手に代えたいと言っても出来ない」

「え? 絶対に?」

「ああ。絶対にだ」

「もし契りを破って違う人と結婚したらどうなるの?」

「分からない」

「え? 何で分からないの?」

「誰も破ったことがないからだ。ただ皆口を揃えて、家族全員に不幸が起ると言い、絶対に破ってはいけないと言われている」


 涼風は生唾を飲む。相当恐ろしいことが起こることは予想出来る。もしかしたら死んでしまうかもしれない。それは勘弁してほしい。


 だがそんな大事な一生を左右する契りを5歳だった自分がなぜ出来たのだろうかと疑問が残る。

 それ相当な難しいことをしなくてはいけなかったのではないか。もしかしたら何か誓約書のようなものを書かされサインでもしたのだろうか。ここに名前書いてと言われたら5歳児の自分なら名前を書いてしまったのかもしれない。


 色々と考えていると、ラクアが言う。


「その契りを結ぶと、2人は15歳で結婚するのが決まっている。だからすずが15歳になるのを待って迎えに来たってわけだ」

「どうやって?」

「ん? 乗り物に乗って」

「ええ! もしかしてUFOってこと?」

「UFO? なんだそれ」

「宇宙船のことよ! 地球では未確認飛行物体のことをUFOって言うのよ」

「へえ、そうなのか。そうだ。宇宙船に乗ってきた」

「凄い! 何ヶ月かかったの?」

「? 1時間ぐらいだぞ」


 涼風は口をぽかんと開ける。そんなにすぐ来れる距離なのか? いやいや今の地球の技術では絶対に無理だ。


「ラクアの惑星はとても進んでいるのね」


 宇宙船があること自体、地球とはかけ離れて技術が発達しているのだが――。まあそこは今は深掘りするのはやめておこう。

 それよりももっと大事なことがある。


「悪いんだけど、ラクアのところは15歳で結婚出来るみたいだけど、私のところは結婚は18歳にならないと出来ないの」

「は! 本当か?」

「うん」


 この前法律が改正されて日本では18歳に引き上げられたのだ。この話をしたのは、諦めさせるためでもあったのだが。


 ――この前新聞読んでおいてよかったー。


 涼風は今中学3年生だ。受験生でもあり、もうすぐ中間テストで時事問題もあるため、新聞を読んで覚えていたのだ。


「じゃあまだすずは結婚出来ないのか?」

「そうよ。だからあきらめたほうがいいわ」

「じゃあ待つか」

「え?」


 ――今待つって言った?


「待つ?」


 絶対にあきらめて、結婚の話は無くなるものだと思ったのに、まさか待つという意外な言葉が出てくるとは思いもしなかった。


「ああ。すずが18歳になるまで待つ」

「い、いや待たなくていいから! すぐに結婚出来ないんだから、その契約、無効にしてもらってよ!」

「それは出来ないと言ったはずだ」

「でも誰かに言えば、契約無効にしてくれるんじゃないの?」

「いや、これはそういうものじゃない。体に刻まれているものなんだ。だからその契りを交わした者は一生それは消えない」


 その言葉に涼風は眉を潜める。


「消えない?」

「ああ。契りを交わした者同士、同じ痣が体に浮かび上がる」


 そう言うとラクアは自分の服の襟元をひっぱり左の鎖骨あたりを見せる。するとそこにはバラのような朱色の小さな痣があった。


「すずも同じ場所にあるはずだ」

「え?」


 涼風はTシャツをひっぱり同じ場所を覗く。するとそこにはラクアと同じ痣が浮かび上がっていた。それには目を見開き驚く。


「なんで?」


 きのうまでこんな痣はなかった。こんなところに痣があればお風呂に入った時に絶対に気付くはずだ。


「この痣は結婚出来る歳、15歳になったら浮かび上がるんだ」


 涼風は今日15歳になったばかりだ。だからきのうまではなかったのかと納得する。


「人によってはお互い契りを交わしたことを忘れていることがあるからな。それを思い出すために痣が浮かび上がり、相手を見つける目印にもなっているんだ」

「そうなんだ」


 そこで、その契りというものがどんなものなのか気になった。


「ねえ、その契りって何をするの?」

「それは……」


 なぜかそこでラクアが涼風から視線を外し下を向く。そして言うのを躊躇しているかのように言い淀む。


「?」


 意味が分からず首を傾げていると、ラクアは顔を赤くして言った。


「口と口のキスだ」

「!」


 ――そう言えば私、小さい頃、誰にでもキスしてたわ。



 原因は自分だったかと涼風は天を仰ぐのだった。





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