[20時24分 北校舎・三階廊下]
あたりまえのことだが、学校の廊下というのは
つまり、狂犬の異名を持つ少年がその剣を最も効果的に振るうに足る空間を確保するためには、立ち位置というものが非常に限定されることになる。
不本意ながら青山騎士との戦闘に突入してしまった警視庁特務に属する
これもまた不本意である。
プロという職業が成立している格闘技は、そのほとんどがラウンド制を取っている。一定時間戦い、そして休憩を挟む。それが採用されている理由は簡単だ。人間の身体は長時間戦うことができるようには作られていないからである。
元々、
繰り返さなければならない状態に陥っていた。
「いいぜ! いいぜ! あんたすごいよ!最高だよ!」
「少年」
手にしたナイフで少年の剣を受け止めながら、玲香は鋭く息を吐いた。
「いい加減、諦めてくれないだろうか。こっちは仕事中だ。君とやりあうのは面倒以外のなにものでもないのだが」
「だったら、一撃目を受けた時点で
少年が押し返す。わずかに玲香の姿勢が崩れた。致命的なものではない。だが、戦闘継続に使うべき体力がまもなく危険水準に入ることを知るには充分であった。
戦闘によりひびの入った窓を盗み見る。ここは三階。あそこから逃げるか。
「――なんだ?」
少年が自分の視線と同じ方向に顔を向けた。窓からの逃走を見破られたか、と思ったのだが、青山騎士の瞳は窓ではなく、そのの向こうに向けられていた。
水平方向に。
「失礼」
言葉と同時にひびが入っていた窓ガラスは完全に砕けた。黒い執事服の男が宙を歩き、優雅に押し入ってくる。
「
最も早く反応したのは
そこには少女がいた。宙に足を預けているというのに微動だにしない。自分が自分であることに絶対的な自信を持っている瞳が少年に向けられる。
「はじめまして。二条
「青山騎士だ。名前は知っている。魔法遊びに興じている金持ちの道楽娘がいるってな」
「挑発ならもう少し気が利いたものにしてくれない? まあいいわ。わたしの目的は『夜の
なるほど、と青山騎士は牙をむいてわらった。目的が重複した。ありがたい、という以外に言葉が出てこない。
「俺の目的も『夜の灯火』だ。身内の恥をそそぐために派遣された。で、あんたとしては、自分が正当後継者だから俺には手を引け、と言いたいんだろうが、返答は次の通りだ」
剣の先を少女に向ける。
「『お前が二条桜子である証拠はどこにもない。
そう、と桜子もまた笑った。
「一つ聞くが、この学校に展開している邪魔な結界はお前のものか」
「そうよ」
礼を言う、と少年は身体ごと少女に向き言葉通りに一礼した。そして笑う。
「お前のおかげで今夜は戦いが楽しめているぜ」
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