[20時23分 中庭・昇降口付近]
校内で人が入り乱れ、いくつかの出会いと衝突が起きている中、校舎全体に探索針を飛ばして情報収集を行っていた
「結界が安定しないわ」
「さすがお嬢様。そのような夢見がちな台詞を堂々と言えるとは。この
「人を頭の中で妄想をこねくりまわしている可哀想な子みたいに言うんじゃないわよ! わたしは本当に使えるの! 魔法を! あと、帰って寝るとか言うな!」
「そうでございましたか。この堤、お嬢様を見守り続けて四十一年、そのようなことは全く気付きませんでした」
「なんで四十一年も見守っているのよ! わたしはまだ十八だってば!」
「堤の戯言に律儀に付き合うのはやめた方がよろしいかと。喋れば喋るだけ、お嬢様ご自身が残念なおこちゃまであることが
よし、お前ら二人そこに並べ、という主人の娘の言葉に「かしこまりました」と二人は応じた。応じた執事はカップを片付け、応じたメイドは桜子のスカートについていた
高校三年生のお嬢様系魔法使いのこめかみに青筋が走る。
「おい」
いかがなされましたか、怖い声をお出しになって、と二人が唱和する。桜子のこめかみがさらにぴくつく。
だめだ、ここで怒鳴ったら、またこいつらのペースに巻き込まれる。ここは優雅かつ冷静に命令をしなければ。
「行くわよ」
「お待ちください、お嬢様」
執事が呼び止める。
「結界は乱れていると仰いましたね。ならば必要分の情報は集まっていないのではありませんか」
「待つのは飽きたわ」
「いましばらく情報収集に専念し、また万全の備えを為すことを進言致します。いま校舎内は混乱していています。混迷しています。ならばお嬢様はここで待つべきです。それが……それが……それが、こすい金持ちの取るべき選択肢です」
おいこら、そこの執事、と桜子が低い声を出した。途中まで聞き入ってしまった自分がバカじゃないかと思えてくる。
「失礼。言葉の選択肢を間違えました。他の方々には潰し合ってもらい、消耗させ、最後は横からかっさらいましょう。それが、こすい金持ちの取るべき選択肢です」
「最後の言葉を変える努力をしなさい!」
「言葉を変えたところで、内容は変わりません。それとも、お嬢様は修辞を改めれば、それだけで現実が変わったと思ってしまうような低脳なのですか?」
行くわよ、と桜子は歩き出した。だめだ、言葉ではどうしてもかなわない以上、ここは行動しかない。執事とメイドが続いた。中庭から北校舎の一階にある昇降口を通って反対側に抜ける。校舎の北側は、生徒用の自転車置き場になっていた。
歩みを止める。
視線は三階に。窓が割れている。
「危険ではありませんか、桜子様」
メイドが静かに
「挨拶をするだけよ。それに――」桜子は付き従う二人へ振り返った「あなたたち二人がいるのよ。たとえ勝てなくても、負けることなどありえないわ」
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