[20時14分  中庭・昇降口付近]

 執事とメイドを従え、優雅に夜の紅茶を傾けていた二条にじょう桜子さくらこの眉が険しく寄った。


 「いかがなされましたか、お嬢様」


 「結界が揺れたわ」その眉にわずかな苛立いらだちが見える「まったく。中にどれだけいるのよ。おまけに結界にまで影響を与える力の持ち主がいるなんて」


 では、今晩は引き上げますか、というメイドの声に桜子さくらこは口角を上げた。


 敗北はかまわない。百敗しようがその次に勝利すればいいのだから。だが、一歩も踏み出すことのない逃走は許されない。そこから学ぶべきものはなにもないのだから。


 高校三年生にしてやたらと物騒な家訓を行動方針としている小柄な魔法使いは椅子に背中を預け直した。


 「まあいいわ。もう少し状況を把握しましょう。動くのはそれからで充分よ」


 その前に何者かがあれを手に入れたらいかがなされるおつもりで? という執事の問いかけに、桜子は笑った。


 「返してもらうに決まっているじゃない。わたしは正当後継者なのだもの。その権利があるでしょう。言葉で所有権を主張することも」それから、と言葉を挟み鋭い笑みを浮かべる「力ずくでそれを奪い取ることも」

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