[20時10分 北校舎・二年B組]
基本的に、窓からなにかが飛び込んできた場合に女の子をかばおうとした主人公が得られる特典は決まっている。
守るために女の子を押し倒してしまい、顔がものすごく接近してドキドキして恋が始まるというのがまず基本。場合によっては、おっぱいを触ってしまったり、お尻に顔を突っ込んでしまったり、ファーストキスをしてしまったりというボーナスがついてきたりもするが、まあ主人公だもの。そのくらいは当たり前である。
主人公であるならば。
というわけで、窓からなにかが飛び込んでくることを察知した
まあ、翼がある以上、当たり前といえば当たり前の行動だが。
目標物がなくなった和之の腕はなにもない空間を勢いよく抱きしめることとなり、その結果、少年の身体は無様と言う言葉の見本のような形で机に乗っかった。
飛び込んできたのは上の階でお茶会を邪魔された
幽霊の
おまけに突入の方法は、非常用のロープを三階の窓枠に掛け、弧を描いてこのクラスに飛び込むという、遠心力を思いっきり利用したものだし。
教室に向かって降り注ぐガラスの破片の先にいた和之にとって幸運だったのは、菖蒲にある程度の余裕があったことであった。片手でロープアクションをおこないながらも、菖蒲はもう片方の手に握った木刀を一振りした。
非現実的な風が生まれた。和之に降り注ぐ予定であった凶片をまとめて弾く。それは同時に菖蒲と和之との間にあった障害物を全て排除することでもあった。
だから見えた。
くっきりと。鮮明に。実際に網膜が捉えたものよりも印象深く。
机に突っ伏す形になっていた少年は、ガラスが割れる音と共に立ち上がった。顔を上げる。上げて、自分に向かって降り注ぐ無数の凶片を認識した。
でありながら、少年は逃げようとしなかった。顔を覆うこともなく、ただ自分に向かって降り注ぐガラスの破片を見続けていた。
まるで神の祝福を見たかのような表情で。
その瞳にわずかに気をとられた菖蒲は、そのわずかな分だけロープを手放すタイミングを間違えた。
結果。
菖蒲の身体は着地に必要なバランスをほんの少しだけ失い、その結果、自称五〇キロ未満の身体は加速したまま和之に向かって突っ込んだ。
ここで和之君に主人公適格があれば、突っ込んでくる一つ年上の美人巫女先輩を軽やかに受け止めたのだろうが、残念ながらそうでないことは、すでに証明済み。
重力と慣性により威力を増した少女を真っ向から受けて立った少年の身体は、見事に吹き飛ばされた。
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