03
さて、ヒヨコもどきがその後どうなったかというと――
「だぁっ、ピイピイうるせぇ!」
耳元の鳴き声より大きな声量で、みちるは文句をいう。授業が終わった途端、牙のペンダントからヒヨコもどきが現れて、彼女にバイトの時間を報せたのだ。しかも、ガラクタ課に着くまで何度も急かすように鳴いてくる。スヌーズ機能まで搭載されていた。
置時計で鳴ることができなくなったため、ツクモはヒヨコもどきがペンダントを
「ほんっっっと、アイツ可愛くねぇ!」
悪態を吐きながら、みちるは狛抓署へと駆けてゆく。ちょうどそのタイミングで、ガラクタ課にいるツクモが呆れまじりに嘆息をした。
「相変わらず
ヒヨコもどきを介して彼女の様子を把握しているツクモは、そう感想を零す。走りながら叫んで、よく舌を噛まないものだ。
「嬢ちゃん、もうすぐ来んのか」
ガラクタ課のソファで先に差し入れの菓子を食べていたオサラギが、ツクモの呟きを拾う。この課の一番の常連であろう彼に、ツクモは視線を投げる。
「オサラギのもってくるのは下らん
「お前さんのせいで、
「
先ほどまで少年がいた場所に狐のような耳と尾を生やした青年がいた。その眼は金色。尾の数は八本。常ならざるその姿を、オサラギのは当然のように眺める。
ツクモは
ツクモが暮らしていた場所に狛抓署ができた。署と彼との間で交渉があり、事件をむやみに増やさないため人の魂を喰うことをツクモに禁じている。その代わり、彼の準食糧である人間の凶気を喰うことを容認したのだ。狛抓署の管轄で殺人事件が極端に少ないのは、そういった事情によるものだった。
一見平和なこの管轄だが、オサラギには目の前の彼ほど恐ろしい存在はないと感じる。人の殺意を蓄え続けている存在は、ひとつ間違うと脅威にしかならないだろう。そんな内心の恐怖を押し隠して、彼はツクモと付き合っている。
凶気が糧になる存在だからか、ツクモは執着心が強く、一度気に入った人間には寛容だ。彼が気に入った人間は、ガラクタ課に配属される。ツクモを宥める役割として。
その役割を
彼の忘れ形見であるみちるだ。ゆうとは似ても似つかない粗暴な少女であるが、父親の遺言でガラクタ課を訪ねてきた彼女をツクモは無下にできなかった。
気付けばなんだかんだと二人はうまくやっている。ガラクタ案件をもってきつつ監視役をしているオサラギの目にも、みちるはみちるなりに彼との関係を築いてみえる。今回、ツクモが自身の力で強化したナリカケをみちるに憑けたのがいい証拠だ。そもそもゆうから託されたとはいえ、自身の尾を媒体に作った道具の所持を許していたから、さらに優遇したといえよう。みちる本人は、その厚遇に気付いてもいないだろうが。
「……まぁ、もうしばらくは退屈しなさそうだな」
ふっと笑みを刷き、ツクモはいつもの蒼い瞳をした少年へと戻る。同時に、バタバタと騒がしい足音が近付いてきた。バタンと音を立ててドアが開く。
「セーフ!!」
「いつもこうならいいんだがな」
どうだ、といった様子のみちるにツクモは皮肉で返す。みちるの肩にのるヒヨコもどきもなんだか誇らしげにしている。
「てか、ピヨ助めっちゃうるさいんだけど!?」
「ピヨ助のおかげで遅刻せずに済んだだろう。第一、バイトの方がよほど喧しい」
「なんだとっ」
ピヨ助の呼称が定着したヒヨコもどきを発端に、口論がくり広げられる。そのいつも通りの光景は、オサラギも安堵を覚えるものだった。みちるの前だと、ツクモはただの少年のようにみえる。
きっと長く生きるツクモには束の間の平和。その束の間が自分の寿命のある限りは続くよう、オサラギは祈る。
ガラクタにも五分の
そう期待できる光景を前に、オサラギは口論の間に残りの菓子を食べてしまうか悩むのだった。
【アニメイト】ブックフェア2023宣伝隊長特別キャンペーン『相棒(バディ)とつむぐ物語』コンテストにノミネートされました。
誠にありがとうございます。
ガラクタにも五分の霊 玉露 @gyok66
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