第108話「再生の芽吹き」

 ヒマワリの弾丸がコアを貫いた。強力な防御を貫通し、本体を強制的に初期化する。“工廠”の最新鋭の特殊破壊兵装にしかできない絶大な威力によって、強制的に黙らせた。

 爆発と共に全てが吹き飛び、ゼロに戻る。


「これで、制御システムも回復するの?」

「フェイルセーフ機能が発動しています。すぐに、とはいきませんが回復に向かっているところです」


 広大な焦土の中心に佇むコアの残骸を見て、少し不安になる。

 赤く輝く大きな結晶は大きな穴が開いて向こう側が筒抜けだ。けれど、よくよく見てみると、不思議なことにじわじわと穴が塞がりつつあった。


「この程度で壊れるほどコアも軟弱じゃないわ。リセットと同時にトラブルシューティングもして、より強靭なシステムに生まれ変わるのよ」

**

 晴れ晴れとした顔でヒマワリが言う。僕は彼女の方を見て、思わず目を逸らしてしまった。


「何よ。わたしの完全体に文句でもあるの?」

「そ、そうじゃないけど。その、変化が大きすぎて……」


 僕と同じか、少し小さいくらいだった少女が、今では見違えるほどの成長を遂げている。アヤメがボタンでサイズを変えられるメイド服を用意した意味が分かった。

 平坦だった胸が大きく膨らんでいるし、手足もすらりと伸びている。なにより、青い瞳が切れ長になって大人びていた。

 ヒマワリは戸惑う僕を見て口元にいじわるな笑みを浮かべた。僕の肩をがっちりと掴み、自分の方へと引き寄せる。


「文句があるなら素直に言いなさいよ。それとも、私の美しさに何も言えないの?」

「ちょっ、まっ、うわぁっ!?」


 柔らかい体に顔を押し付けられる。乱暴に揉みしだかれていると、後ろから手が伸びてきて、ヒマワリから引き剥がされた。


「アヤメ?」

「ヒマワリ、いい加減にしなさい。ヤック様もお疲れです」

「ふぅーん? だからわたしが癒してあげようとしてたのに」

「節度をもちなさいと言っているのです」


 何やら頭上で激しい口論になっている。この、一人だけ置いて行かれている感じは久しぶりだ。

 疎外感を覚えてコアの方を見ると、ユリが注意深く覗き込んでいた。


「ユリ?」

「特殊破壊兵装の更新点検機能が復活したようです。どうやら、優先度が高かったようですね」


 珍しく嬉しそうに声を弾ませるユリ。

 その言葉で僕も元々の目的を思い出す。僕らは二人の特殊破壊兵装を点検するために“工廠”までやって来ていたのだ。


「しかし、これはどうすればいいんでしょう」

「えっ」


 眉を寄せるユリ。


「もしかして、どうやって修理するのか分からないの?」

「いざとなれば理解できるかと思ったのですが、なかなかままならないものですね」

「ええ……」


 らしくもなく迂闊なユリにがっくりと肩を落とす。その時、頭上から得意げな声がした。


「特殊破壊兵装の点検業務はわたしの本業よ。どうしてもというなら、やってあげてもいいけど」


 そうだ。ヒマワリはもともと“工廠”のハウスキーパーで、特殊破壊兵装の整備も行っていた。彼女に任せれば全て解決する。やっぱり彼女が仲間になってくれて、本当に助かった。


「た、だ、し」

「えっ、うわっ!?」


 アヤメの手を振り払い、ヒマワリが僕を引き寄せる。


「重要な作業だから、マスターにも付き合ってもらうわよ」

「……その必要があるのですか?」

「もちろん。アヤメとユリはそこで指を咥えて待ってなさい」


 アヤメは怪訝な顔をしているけれど、何も言えない。

 僕はもう置物になったような気持ちで、ヒマワリに手を引かれるままコアに向かった。


「あの、ヒマワリ? 僕は何をすれば――」

「ふふっ」


 戸惑う僕を見て、ヒマワリは不敵に笑う。成長した彼女の笑みには艶やかな色が垣間見て、不意を突かれた。たじろぐ僕の肩をぎゅっと掴み、ヒマワリは耳元に口を近づけて囁く。


「ずっとわたしの側にいなさい。そうすれば、わたしは全力を出せるから」

「全力って」

「ハウスキーパーはマスターがいてこそ、でしょう。わたしのマスターになったからには、もう離さないわよ」


 妖しげな光を宿す目で流し見て、彼女はコアに向き直る。

 念願の特殊破壊兵装の点検が始まっているというのに、僕は何故か今後のことで不安がいっぱいのまま、それを見守ることしかできなかった。


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