第86話「特殊破壊兵装の在処」
ヒマワリを救うためにはどうしたらいいだろうか。考えた末に僕はアヤメたちに情報を求める。
「特殊破壊兵装、ですか」
「うん。ヒマワリのための特殊破壊兵装が用意できればいいと思うんだ」
特殊破壊兵装はアヤメもユリも持っている。それは彼女たち機装兵にしか扱えない特別な武器だ。ダンジョンの堅固な壁やコアも破壊できる凄まじい力を宿している。
そして、さっきアヤメは言っていた。第二世代は第一世代よりも能力が上がっていて、それを前提に開発された強力な特殊破壊兵装もあると。この“黒鉄狼の回廊”はもともと“工廠”と呼ばれる施設で、特殊破壊兵装の開発を行なっていた。つまり、ここにはヒマワリのための特殊破壊兵装もあるんじゃないだろうか。
「機装兵、ハウスキーパー第二世代専用の特殊破壊兵装ですか……。そうですね……」
僕の言葉を受けて、アヤメはじっと黙り込む。頬が赤くなっているのは恥ずかしいのではなく、何かを深く考え込んでいる時の印だ。
ダンジョンの物陰で休憩を取りながらの会話。ユリは外に目を向けて警戒を続けてくれている。
第二階層と言えど周囲にはゴーレムが徘徊していて、見つかれば仲間を呼ばれることも多い。これまで潜ってきた迷宮よりも、更に緊張を強いられる。
「――当時、正式採用に向けて検証実験中の特殊破壊兵装があったように記憶しています」
「検証実験中?」
そういえばヒマワリもそんなことを言っていた。彼女は検証実験で怪我をしていて、それを治すために待機していたとか、なんとか。彼女は第二世代として新しい特殊破壊兵装の開発に携わっていたのかもしれない。
もしそうなら、この迷宮のどこかにそれが隠されている可能性はあった。
「その特殊破壊兵装の名前は?」
「……申し訳ありません。私の記憶領域には欠落が多く、覚えておりません」
こちらが申し訳なくなるくらい深々と頭を下げるアヤメ。慌てて彼女を止めて、それなら仕方ないと切り替える。そもそも名前が分かったところで、それはさほど重要ではない。その特殊破壊兵装がどこにあるのか、それを突き止めないと。
「施設の奥にガラス張りの部屋がありました。そこで私は博士と……。そうです、博士とそれを見ました」
アヤメはゆっくりと記憶を紐解いていく。手がかりになるのは、長い廊下の先にあるガラス張りの部屋。そこから実験施設を覗いていたという。
その構造がまだ迷宮内に残っているかは分からないけれど、それを探すしかない。
「行こう、アヤメ。これこそ探索者の本領発揮だ」
迷宮に潜り、財宝を見つけ出して持ち帰る。探索者なら日常的な仕事だ。その目標が特殊破壊兵装であっても、大きくは変わらない。
“黒鉄狼の回廊”の地図は事前にココオルクの探索者ギルドで入手していた。それを見てみると、入り組んだ迷宮であることに変わりはないものの、大きな工場のようにも見えてくる。
「第一階層はエントランスや応接室、展示室などがありました。また、消費する物資の搬入もこちらで行なっていたようです。本格的な製造施設は下層の方で、第二階層などの比較的浅い階層では、完成した製品の管理などを行なっていたはずです」
「第二階層は倉庫ってこと?」
「おそらくは。蜘蛛型のゴーレムは荷物運搬用の自立機械の発展系でしょう」
アヤメの説明を聞けば、迷宮の内装が効率的に何かを作るために設計されていたことが分かる。区画が大きく改造されている箇所もあるようだけど、前提知識があるだけでまるで変わって見える。
そう思えば、ココオルクが発展した理由もなんとなく察せられる。比較的探索がしやすい第二階層は倉庫区画となっていた。つまり、持ち出しやすい迷宮遺物が多かったんだろう。それを元にして町が興り、探索者が育った。そうして、今は下層に向かっているところだ。
「普通、特殊破壊兵装はどこに置いてあるんだろう」
「規定では武器庫に安置されることになっています。武器庫は権限を持つ者でなければ開放できませんので、そこにある限りは安全に保管することができるのです」
アヤメはすぐに答えてくれた。武器庫を探せば特殊破壊兵装があるのだろうか。問題は、この迷宮における武器庫がどこにあるのか、という点だけど。
「私も“工廠”の武器庫の位置までは把握できていません」
「仕方ないよ。でもまあ、あるとしたら三階か四階くらいかな」
特殊破壊兵装の役割は、施設が暴走した時に心臓部であるコアを破壊することにある。ということは、当然入り口近くに置いておけるわけがない。とはいえ、コアに近い最深部に置いても暴走に巻き込まれて手にすることができない可能性がある。だから、真ん中あたりの階層に置いてあるんじゃいかと予想を立てた。
今まで見つかっているのは第七階層まで。ダンジョンコアが何階層にあるのかは分かっていない。けれど、大掛かりな製造設備がある場所には置かないだろう。
「ではまずは第三階層に到達する必要がありますね」
「アヤメ、お願いできる」
「お任せください」
第二階層でも、すでに苦しい。それでもアヤメはいつもの冷静な面持ちで頷いた。
ユリも槍を構える。
二人のメイドと一緒に、ダンジョンの通路へと戻る。
「今のところ、大きく構造が変わってるわけじゃないらしい。この地図を辿れば階段があるはず」
「かしこまりました。――先へ向かいます」
アヤメの胸元にある徽章が青く輝く。その光が両手に移り、大きな金属製の籠手となって現れた。
特殊破壊兵装“万物崩壊の破城籠手”を装備したアヤメは、強い魔力に反応して集まってきたゴーレムを鉄拳で殴り飛ばす。
「特殊破壊兵装であれば十分に対処可能ですね」
「う、うん。気を付けてね」
ぐっぐっ、と手を動かすアヤメ。彼女の指先に合わせて特殊破壊兵装の大きな手のひらも滑らかに動く。どういう仕組みか分からないけど、彼女の籠手は宙を浮かんでいて、自由に動かすことができるのだ。
「……ヤック様、少し離れていただいてもよろしいですか」
「え?」
ふと、アヤメが何かを思いついたように口を開く。
僕は首を傾げながらユリの方へと下がる。ユリは僕の肩に手を置いて、警戒するようにアヤメのほうを睨んだ。
その時――。
「――固有シーケンス実行。“崩壊の号鐘”」
アヤメがおもむろに特殊破壊兵装を完全展開させる。荒々しい青い光を放つ拳を、勢いよく地面に叩きつける。
「うわあああっ!?」
グラグラと地面が揺れる。まるで地震のようだ。衝撃がダンジョン中に広がった。
「ふむ……。やはりダメですか」
アヤメは“万物崩壊の破城籠手”をすぐに通常展開に戻す。そして、たった今殴りつけた床を見下ろして冷静につぶやく。
その床は、アヤメの鉄拳を受けたにも関わらず、傷ひとつなく健在だった。
「迷宮の構造は非常に堅牢です。もし、床を貫ければ楽だったのですが……」
「うーん。そ、そういう実験をするときは先に言っておいてくれると嬉しいかな」
「申し訳ありません。善処します」
たまに彼女は大胆なことをする。
僕はアヤメが何事もなかったかのように歩き始めるのを見て、ゾワゾワとした気持ちを抑えながら後をついて行った。
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