第81話「壊れた機械の迷宮」
ココオルクの特産品を注文して出てきたのは、マッシュポテト、ポテトグラタン、ポテトポタージュ、ベイクドポテト、フライドポテト、ポテトチップス。ポテトとポテトが被るという次元ではないほどのポテト三昧だった。
どうやらコルトネ山の集落では基本的に芋が主要な作物として栽培されているようで、これらの料理が迷宮探索者や商隊、鍛治師といった働く人々の活力となっているらしい。
「なるほど。最初に見た時はびっくりしたけど、食べてみるとなかなか美味しいね」
全ての料理にポテトが入っているだけに、テーブルに運ばれてきた時は面食らった。とはいえ実際に食べてみるとこれが悪くない。マッシュポテトには遠方から運ばれてきた油漬けの魚なんかも入っていて適度な塩味があるし、グラタンにはベーコンや根菜なんかもゴロゴロしている。
食べていて感じるのは芋の単調な味ではなく深い包容力。様々な味をまとめ上げる懐の深さと、ココオルクの人々の創意工夫のおかげで、どれも飽きることなく食べることができた。
「とはいえ、全部食べるとかなりお腹にくるね……」
過酷な肉体労働を想定してか、どの料理もしっかりと塩が効いている。油をふんだんに使った揚げ物も多くて、あっという間に満腹になってしまった。
「芋はエネルギーの塊ですから。これを常食していると肥満の原因になる可能性もあります」
「肥満ねぇ。そんな暇はないと思うけど」
標高の高い山の上という立地は厳しい。鉄を打つのも運ぶのも大変な重労働だ。アヤメは太ることを危惧しているけど、むしろここの人々にとってはこれくらいガッツリとした食事がないと到底体力を賄えないんじゃないだろうか。
「アヤメたちもしっかり食べてね。明日から本格的に活動を始めるから」
今日はもう夜が迫っているし、そもそも一日歩き通して疲労も溜まっている。宿のベッドでしっかりと身を休め、明日に備えなければならない。
僕が料理を勧めると、アヤメとユリも上品にナイフとフォークを使って料理を食べ始めた。
「――ごちそうさまでした」
食事を終え、満腹感で眠たくなってくる。とはいえまだ今日中にやるべきことは多い。
僕らは宿に戻ると早速明日の準備を始めた。アヤメとユリには荷物の点検をしてもらい、僕はココオルクの探索者ギルドで貰った資料を頭に叩き込む。
「“黒鉄狼の回廊”はやっぱりゴーレム種しか出現が確認されていないみたいだね」
現地のギルドが定期的に纏めている資料が一番信頼できる迷宮の情報源だ。分厚い冊子だけれど、そこには先人が命を賭して集めた叡智が凝縮されている。
それによれば、やっぱり事前の噂の通り“黒鉄狼の回廊”にはゴーレムという特殊な魔獣しか出てこないとされていた。
「となると、いよいよ僕は役立たずになるのか」
ゴーレムというのは、全身が土や岩、鉄なんかで構成された魔獣だ。剣や槍なんかはなかなか通らず、基本的には棍棒やハンマーといった打撃武器が必要になる。
「アヤメは籠手があるからいいとして、ユリはどうする?」
「コアを狙えば槍でも十分に対応可能かと。槍は叩けば打撃武器としても使えます」
ゴーレムの体内にはコアと呼ばれる心臓部分があることも多いらしいけど、それを狙うのも当然難しい。普通の槍使いではまず通らないはずだけど、ユリはなんてことなさそうに即答した。さすがは戦闘特化型機装兵のバトルソルジャーといったところか。
「マスター、私も資料を見せて頂いてもよろしいでしょうか」
「もちろん。情報は大事だからね」
道具の点検を終えたユリに読み終えたページを渡す。彼女もアレクトリアの一件で事前の情報収集の重要性を実感してくれたのか、真剣な表情で文面に目を落とす。
「やはり、徘徊しているのはかつて製造用自律機械として活動していた設備群のようですね」
そこに記載されていた魔獣の詳細を確認してユリは頷く。予測が確信に変わったようだ。
“黒鉄狼の回廊”はもともと“工廠”と呼ばれる施設だった。そこは二人が扱う
「彼らは同族ってこと?」
少し不安になって尋ねる。
ユリたちからすれば、ダンジョンを徘徊しているゴーレムはかつての仲間とも言える。そんな相手に彼女たちが武器を振るえるのか。
「問題ありません」
「統制から逸脱した機械は処分の対象となります。人間に対して危害を加えている以上、おそらくは暴走状態と見做されるでしょう」
ユリは端的に頷く。アヤメも別段苦しげな様子もなく淡々と語った。
「一つ疑問なのは、なぜ彼らがまだ稼働状態にあるのかという点です」
「稼働状態?」
「大断絶以降に、少なくとも七千年もの時間が経過しています。通常であれば製造用自律機械も耐用年数を大幅に超過して活動に支障を来たすはずです」
機械というのは永遠に動き続けるわけではない。むしろ生物ではないからこそ、壊れて動けなくなることも多い。アヤメやユリがこの時代まで生き残ったのは、奇跡的なことなのだと改めて思う。
「メンテナンスは問題なく実行され、機械製造ラインにも問題はない。そうなると、おそらく統括管理システムは健在……。しかし機械は暴走状態にある」
アヤメの頬が赤みを帯びていく。彼女が考え込んでいる証拠だ。
状況から情報を集めて、仮説を立てていく。現代にまで続く“黒鉄狼の回廊”というダンジョンについて考察を深めていく。
「これは、統括管理システムが暴走している可能性があります」
彼女が出した結論はそれだった。
どうやらダンジョン内にはゴーレムを纏めて管理している大元の存在がいるらしい。統括管理システムと呼ばれるそれは、ダンジョンそのものを維持管理することを目的にして作られたものだ。
けれど、統括管理システムは部分的に壊れている。機械を生み出し、修復し、指揮しながら、ダンジョンに侵入する探索者を攻撃している。
「それは厄介なことなの?」
「そう言えるでしょう。統括管理システムは管理下にある機械を用いて情報を集め、全個体にフィードバックします。全ての魔獣が常に連携しながら襲いかかってくるものと思って、差し支えないでしょう」
「き、厳しいね……」
魔獣というのは一体だけでも非常に厄介だ。全身が硬質なゴーレムであればなおさら。
それが統括管理システムという親玉の下で連携を取りながら襲ってくるというのは、悪夢のような話だ。
「これ、敵のなかに機装兵はいるのかな」
一つの可能性が頭に浮かぶ。
ダンジョンに出てくるゴーレムはほとんど全て人よりも獣に近いような外見らしい。けれど、この施設に機装兵がいて、それも敵として襲ってくるのだとしたら。僕は本当に役立たずになるかもしれない。
「可能性はあります。――しかし、機装兵は製造用自律機械よりも高度なAIを搭載しています。たとえ統括管理システムが破損しても、その制御下から脱することもできるでしょう」
アヤメの言葉は慰めのようにしか聞こえなかった。
資料を見ると、今のところ機装兵のように人型のゴーレムは確認されていない。僕は祈るような気持ちで、明日からの探索に思いを馳せた。
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