第15話 友達?

「ミリア・ツェールンです。病気で臥せっておりましたので入学が遅れました。皆さんより年上かもしれませんが、気にせず接して頂けますと嬉しいです」


 教師の案内で教壇前に立ったミリアが、教室の皆に向かって挨拶をした。

 偶然なのか仕組まれたことなのか、彼女は俺たちのクラスに転入してきた。

 長くてさらさらしたストレートの金髪に、切れ長でクールな目。美人の転入生に男子生徒たちが湧く。


「大丈夫、このクラスには18歳の長老も居るから!」「慣れてる慣れてる、なっ? セイシロ!」「気にしない、気にしないよー!」


 拍手と共に声が上がるごと、クラスの連中がこっちを見て笑う。

 最近俺はクラスの中で、長老などと呼ばれている。

 付き人にも年齢制限があるので、この学年で18歳は上の方らしいのだ。


 揶揄されているようにも見えるが何気にこれは敬称ぽい。

 テストで良い点を取り(最初こそズルをしていたが、前回はそんなに・・・・ズルをしなくても悪くない点が取れた。これはリーリルに教わっている効果だろう)、身体を動かす授業でも活躍している俺に対しての、彼らなりの敬意なのだ。


 隣に座っているメルティアがジト目を向けてきた。


「だいぶクラスにも馴染んできましたなぁ、セイシロ殿」

「『殿』はやめろ。おまえに敬語を使われるとムズムズする」

「褒めとるんやでぇ。あのアラドを倒したセイシロは、男共のヒーローやなぁって」


 そのアラドからの刺客ぽい女の子が、いまクラスからの注目を受けている。

 根拠である「レベル」をうまく説明できない為、リーリルには一笑に伏されてしまったのだが、その分俺が注意していかなくてはなるまい。


「なによ?」


 俺の視線を感じたらしいリーリルが、訝しげな顔でこちらを見返した。


「リーリルって、良く考えてそうな割に根っ子のところではお気楽だよな」

「なんか失礼なこと言ってない!?」

「ある意味褒めてる」


 溜息混じりに黒板の方を見ると、ミリアと目が合った。

 ミリアにお辞儀をされる。

 横にいる教師が彼女に訊ねた。


「おや、教室の誰かと知り合いかい?」

「はい。そこに居るリーリルさん、セイシロさんと」


 にっこり微笑んで俺の方を見てくるリリア。


「そうか。じゃあ今日は彼らの隣に座るといい、色々教えて貰いなさい」

「はい。――よろしくお願いしますねリーリルさん、セイシロさん」


 教室の男子たちがまた騒いだ。


「うおお長老!」「手が早くないか!?」「許せねー、許せねーよ!」


 一斉に集中する俺への非難。あれ、敬意はどうしたのですか皆さん。年長者に対する敬意は?


「はい、悪役ー。短い天下やったなセイシロ」

「うるせっ」


 うひひ、と笑うメルティアを一瞥して、俺は席を少し移動した。

 リーリルとミリアを隣同士にしないようにしたかったのだ。しかし周囲からは、俺が『ミリアの隣に座ろうとした』と見えたらしい。男共の嫉妬がさらに渦巻いた。


「ちょーろー!」「ずるいぞ抜け駆けか!?」


 そんなんじゃねーから、とたまらず声を上げながら、俺はミリアを迎える。


「よろしくお願いしますね、セイシロさん。リーリルさんも」

「気にしないでミリアさん。同じクラスになれて嬉しいですわ」

「せやせや、気にせんでええ。あたしはメルティア・ハルモニア、よろしゅうな」


 メルティアにも丁寧な挨拶をして、ミリアは俺の隣に座る。

 それを確認したのか教師の話が始まり、朝の学活が本格的に始まった。


 それにしても、と俺は教師の話を聞き流しながら重い息を吐いた。

 ミリアのことだ。

 これまでレベルと敵エンカウント表示以外には怪しいところのない彼女である。だが引っかかっているその二点が致命的なので、俺にとっては彼女が敵であることは確定的な事実なのだった。

 面倒なことになる前に、カマを掛けてみるか……。


(なにが目的なの?)


 俺はリーリルに気づかれないように、ミリアと視線を合わせず小声で呟いた。

 盗賊スキルを使った、普通ならほぼ聞こえないような小声だ。だが彼女なら気づくはず、なにせレベル60、周囲への注意力も普通の学生の比ではないはずなのだ。


(なんのことでしょう)


 果たして彼女は乗ってきた。

 これに乗ってきた時点で、もう彼女は「普通でない」と自白したようなものだ。スキルを使ってカマを掛けたことで、俺を騙し切るのは難しいと理解してくれたに違いない。


(薄々わかってたはずだよね、俺がもう気がついてるって。だからこの声にも反応したんでしょ?)

(丁寧に確認をしていくのですね。油断のならない方です)

(その話し方も、もうやめろよ。素でいいよ、疲れるだろ?)


 ミリアは苦笑したようだった。視線を向けてないから、あくまでそんな雰囲気を感じただけだが。


(助かる、少々窮屈だったのは否めない。これからは気楽にやらせて貰うよ)

(単刀直入に聞くけど、アラドの差し金か?)

(そうだ)

(目的は? 『俺』なんだとは思うけど)

(小声のままでは話しにくいな。あとで場所を変えて、でどうだい?)

(わかった。じゃあとりあえず今は一つだけ)


 なんだ? と問い返してくるミリアに俺は目を細めながら呟いた。


(リーリルが関係ない件ならば、彼女を巻き込むな。彼女は少しお気楽なところがあってね、おまえを信用したがってる)

(……みたいだな)

(くだらないことで、彼女を傷つけたり煩わせたりしたくない。だから、リーリルを利用する、とかは考えてくれるな)

(断る、と言ったら?)


 俺は初めてミリアの方を向いた。


「俺は、ミリアさんの為に言ってるよ」


 にっこりと、微笑んで。

 ミリアがこちらを向いて息を呑む。


「どうしたのセイシロ? 急に話し出して」

「なんでもないよリーリル。いやさ、俺たちミリアさんに学園の中を案内するって言ってたよねって。是非行こうって話を彼女に今一度ね」

「そうね、お昼休みと放課後を使って行きましょうか。ミリアさん、いかがですか?」


 今度はリーリルが、にっこりと。


「あ、ああ。よろしく頼めるかな」

「あら? ミリアさん、話し方が……」

「いやっ! これは、その!」


 俺に気を取られていて切り替えが効かなかったのか、ミリアが慌てている。俺はクスリと笑って助け船を出すことにした。


「さっきから小声で俺たち話してたんだけど、これが彼女の本来の口調らしいんだ。もう友達なんだから、素にしてくれって言っといたんだよ」

「まあ、それは素晴らしいですわ! じゃあ、私たちも……えっと、えへん、こほん」


 リーリルは咳払いをして。


「よろしくね、ミリア!」

「ああ、……こちらこそよろしく。リーリル」


 俺たちは『友達・・』というものになったのだった。



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微妙なニュアンスでの友達という言葉になりましたが、果たして仲良くしていけるのか!?

はーいみんな仲良くしてー。余った子は先生と組もー。こっちきてこっちー。


ここまで読んでくださってありがとうございます。

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