第14話 sideミリア

 最初から警戒されていた。

 林に隠れて、遠くからトラップで馬車の車輪を外したのが気づかれていたのだろうか?

 それともなにか私に不自然なところがあったのだろうか?


 とにかく不思議なことに、私はあのガーディアン――セイシロという男に最初から警戒されていた。

 隙あらば害しても構わない。そうアラドさまは言っていたが、なかなかどうして。隙などまったくない。


 レベル7のくせに、とはアラドさまがセイシロに対して吐き出していた言葉だ。

 アラドさまが持つ魔法工芸品アーティファクトは対象の強さを大まかな数値に置き換えて示してくれるものらしいのだが、セイシロはその数字が7。アラドさまは15で私は60とのことだった。


 アラドさまの言を信じるのならば、私とセイシロの実力には大きな差がある。

 圧を感じるなどということは本来ありえなさそうな話であるのに――私は初めて顔を見た彼に、えも言えぬプレッシャーを覚えさせられたのだ。


 私は観察されていた。

 注意深く、頭の先からつま先まで。


 擬態は完璧だったはずだ。良いところの子女になれていたはず。それを、どこを見られてあそこまで警戒されていたのだろう。まったく理由が知れなかった。これも、アラドさまの言うセイシロの持つスキルの力の一種なのだろうか。


 間違いないのは、セイシロは侮れない男ということだ。

 レベルが示す数値だけでは語れない、なにかがある。こちらのことを見透かしていると言わんばかりのあの目、ガーディアンとしてきっと一流に違いない。


『俺の代わりに学園に通い、奴の、セイシロのスキルの謎を解け。おまえなら顔も良い、身体も良い具合だ、いくらでも奴を誘惑できるだろう』


 アラドさまの言葉が心の中に蘇る。

 ふふ、と自嘲の笑いが勝手に口から零れていくのを自覚した。


「いくらでも誘惑できる、か」


 アラドさまは何を見てらっしゃるのだろう。

 あの二人を見て、簡単に誘惑できるなどと、どこで思えるのか。


 セイシロとリーリル嬢は、強い絆で結ばれている。

 あれは主従の関係ではない。もっと強い、なにかだ。あの間に私如きが割り込める気は、到底しなかった。


 取り入るならば、まずはリーリル嬢にだろう。

 彼女は甘い。余地がある。それは幸せに暮らしてきた者が持つ特有の甘さだった。根っ子で人を信じているのだ、良い両親に育てられたのだろう。

 私たち姉弟とは違う。妬ましくも、それは羨ましい。


 それにしてもまさか、弟……レイナスではなく私が学園に通うことになるとは。

 あんなに学園に行きたいと願っていた弟は、謎の奇病でベッドから起き上がることすら出来ない身になってしまったというのに。


 治すにはエリクサーと呼ばれる秘薬が必要という。

 手に入れるには、今の私では到底捻出することのできない額が掛かる。しかも、お金を用意できるだけではダメだ。手に入れるにはコネが要る。アラドさまというコネが。


 だから。


「いくらでも……言われた通りにするとも」


 あの男、セイシロの能力を探れというなら探ろう。

 殺せと言うならば殺そう。

 選択肢はない。この身の全てを捧げて、仕事を全うしよう。


「だから――神さま」


 まだ弟のことを、そちらに連れていかないでください。



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ミリアさんは切れ長目の金髪美人さん!どう転がっていくのか学園編!

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