第13話 ようこそアルーシア学園へ
「窮屈じゃありませんか? 狭いキャビンで申し訳ありません」
「いえいえ、十分です。って、……なによセイシロ、くっついてこないでよ。まだそっちスペースあるじゃない」
馬車の中の狭いスペース。それでも俺は、リーリルを庇う姿勢を忘れないようにした。目の前に座っているお嬢さん――ミリアが敵なのは間違いない。おそらくは、アラドからの刺客。
「もー、暑苦しいから」
「やめろリーリル、こそばゆい。脇腹を手刀で突くな」
ズムズムと、皮下脂肪の薄い脇腹を攻めたてられてしまい、俺は仕方なくリーリルから距離を取っていく。仕方ない、せめて意識をミリアから離さないようにしておくか。
「お二人は仲がよろしいのですね」
「はあっ!?」
リーリルが頓狂な声を上げた。
「ち、違います。これは付き人への教育でして……!」
ズムズム!
「だからやめろ、ちゃんと距離取っただろ!」
「やめないわよ。あなたがそんなだから笑われちゃうの、もう!」
見ているミリアが、口に手を添えながらクスクス笑う。
「うふふ、主従なのにそれを感じさせないお二人の関係性。羨ましいです、まるで信頼し合っているパートナーみたいな」
「パ……ッ!」
ズム。リーリルの手が止まった。
なぜか耳まで顔を赤くして、俺の方を見る。そしてスススと、椅子の上を一人分、俺から離れた。なんだこの反応。
彼女はゴホン、と咳払いを一つ。そしてミリアの方を向き、
「ミリアさんは今日が初めてのご登校と仰っておりましたが……」
「えっ? あ、はい」
180度違う話題を振った。
すごい。なんという強引な話の転換。ミリアもそれは感じているようで、少し苦笑気味にコホン、と息を整える。
「病弱でしたもので、学園に入るのが遅くなってしまいまして。先日やっと主治医の許可が下りたので急いで支度をしましたの。これからは寮生活ですわ」
「ではこの馬車は」
「はい。寮で暮らす為の品を運ぶ理由もありまして」
アルーシア学園には学生寮がある。
ハイデルの街に実家や別屋敷を持つ者以外は、だいたいここに入寮する形になるのだ。実に学園生徒の九割が寮生活なのだが、俺やリーリル、メルティア、それにアラドも寮と無関係なのであまり縁がない。
ゲームの方でもあまり触れられることがなく、『ある』と存在を仄めかされていた程度なのだった。
「あら、そうなりますと今日は先に寮へと向かうはずでしたのでは?」
「いいんです。困ったときはお互いさまですから」
にっこりと微笑まれて恐縮するリーリル。
気を遣ったのか、今度はミリアが話題を変える。
「リーリルさんのお父さまは、この街のご領主さまであらせられましたよね」
「え、ええ」
「幾つもの学園を擁する都市、ハイデル。ずっと憧れておりました。自由な校風と聞いておりますが、その実現にはご領主さまの手腕が大きく関わっているとか」
「改まって父の話をされると耳にこそばゆいものですが、私もそう聞かされております」
「尊敬しております。一度ここの学園には来てみたかった……」
どこかしんみりと、目を伏せるミリア。
学園になにか思い入れがあるのだろうか。
「そう言って頂き、父も喜ぶと思います。父も、学園こそ街の象徴と言って日々頑張っておりますから」
二人のやりとりを見ながら、俺はこっそりとミリアに向かってアイテム鑑定のスキルを使っていた。
『盗賊SKILL:
『アルーシア学園制服上下(女子):襟に白ラインの入った紺ブレザーと赤黒チェック模様のスカートは、街に住む全男性の憧れ。この姿で市場で砂糖菓子でも買おうものなら確実にオマケして貰える。でも育ちが良い子が多くて皆買い食いなんかしないのです。残念』
『ID取得:DAFF 95BC CE65 7413』
『盗賊SKILL:
『翡翠のイヤリング:鮮やかな深緑がミリアの長い金髪に似合っている。透明感があるのは高価なものでもある証拠』
『ID取得:BCFA 11D5 89A1 54CC』
ピッ、ピッ、ピッ。
ネックレスや指輪まで鑑定していくが、どれも普通のものだ。一つくらい魔法の篭った物があるかとも思っていたのだが、そんなこともない。
おかしいな、敵……だよね? 絶対に刺客だと思うんだけど。
目の前にいる彼女、ミリアはなに一つ刺客ぽい物を持ち合わせていなかった。
どこにでもいる、普通の貴族子女。レベル60ということ以外は怪しいところがない。
(まあ、そのレベルが致命的に怪しいんだけど)
「ミリアさんは、今日から学園にお通いになるのですよね?」
「はい。今日は挨拶くらいではありますが」
「でしたら明日にでも、私たちが学内をご案内して差し上げましょうか? 如何でしょう」
えっ!? いやおいリーリルさん?
「まあ。よろしいのですか?」
「もちろんですわ。ご相乗りさせて頂きましたお礼もありますが、アルーシア学園の生徒たる者、転入生には良くしないと」
「ありがとうございます、嬉しい!」
「うふふ。ようこそアルーシア学園へ。これから共に学んでいきましょうね」
「はい!」
こうして、怪しいなと思いつつも明日一日、俺たちはミリアと行動を共にすることになったのだった。
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レベル60のイメージは、それが武芸を指すものならば達人に差し掛かっているくらいの力量、くらいに考えておいて貰えると丁度いいかもです。割とアバウトに考えていたので、レベル関係はいずれ整え直して大修整が入るかもかも!
とりあえず「ミリアはとても強い」と考えておいて頂ければw
面白かった!次も楽しみ!など思って頂けましたら、是非ともフォローや☆で評価頂けますと幸いです。モチベーションが上がります!
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