第5話 sideリーリル

 屋敷に帰り着いてまずしたのは、お風呂に入ること。

 外では満足に湯浴みができなかった。お風呂が珍しいものだっていうことを、この上なく思い知らされちゃった。


 侍女に用意をして貰ったら早速服を脱いで、行儀悪にドボン。湯舟に飛び込んだ。

 ぶくぶくぶく、と頭のてっぺんまで湯に浸かる。

 少し熱めのお湯が、緊張していた全身の筋肉を一気にほぐしてくれた。


「ぷはぁっ」


 ほっと息をつく。

 帰ってきたんだなぁ、という実感が湧いてきた。

 なにもなくて、よかった。酷いことにならずに、よかった。

 もしあの人が居なかった、と思うと、今さらながらに身震いが起こる。

 あの人、トードー・セイシロ。


 聞きなれない音の名前だった。

 見た目は普通に見えたけど、どこの国の人なんだろう。

 セイシロのことはわからないことばかりだ。


 最初に遭遇したのは、攫われるときだった。

 あの人は実行犯の一人、私がこっそり一人で街市場に遊びに出ていたときを狙われた。

 私はセイシロと他の男たち三人に布袋を被せられ、ミノムシのようにされて抱えられたのだ。


 あのときのセイシロは怖かった。

 ガサツで目つきが悪くて、殺されるかと思った。


 だから次にセイシロを見たとき、彼が檻の中の私に話し掛けてきたときは、正直同一人物だと最初はわからなかったほどだ。

 私を檻から出してくれたセイシロは、こういっちゃなんだけど、間の抜けた表情をしていたのだった。

 まったくトゲトゲ感がなかったので、別人かとも思ったけど、見ればやっぱり私を攫った男だ。違和感が凄くて、最初はまったく信じられなかった。


 だけど一緒に逃げていて、わかった。

 セイシロは、私のことを大切に思ってくれている、と。


 なぜだかはわからない。

 あの人が言ってることはデタラメばかりで要領を得ない。

 きっとなにか、秘密にしないといけない理由があってはぐらかしているのだろう。


 今、私はセイシロに興味津々だ。

 どこから来た何者なのか。なんの目的があるのか。なんであんな凄いことができるのか。昨日の食事で、モノミ豆だけを横に弾いて残したのは何故なのか。彼が良く言う『俺をサッカーボールにしないでね?』とはどういう意味なのか。

 いっぱい、いっぱい、知りたいことがある。


「おしえて……くれるかな?」


 いつか。もっと仲良くなったら。

 そういう意味では、アラドのお陰でチャンスができたと言える。

 アラドがセイシロを狙うから、セイシロがウチに来てくれた。私のボディガードという名目で、来てくれた。


「逃がさないんだから」


 ぶくぶくぶく、と湯舟に沈みながら目を閉じる。

 謎を解き明かすまで、ぜーったい逃がさない。


 これは私の誓いと言ってもいいわ。

 必ずアイツの秘密を暴いてみせる。


 ――決して。そう決して。

 聖剣を振った時のアイツがカッコよかったから、とかじゃないんだから!


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お風呂がちゃんとある世界です!でもきっとお金持ち御用達。

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