49.紅茶日和
結季ちゃんがテーブル側の席につき、その正面の二人掛けソファに空ちゃんが座る。
俺も空ちゃんの隣に座ったところで、復帰した沙月がお茶の準備を始める。
空ちゃんは好奇心でいっぱいで生徒会室を見渡している。
「生徒会室ってなんだかすっきりしてますね。私の中学校の生徒会室って、もっとごちゃついた感じでし。やっぱり良いとこの高校は違うなあ」
「他の学校はよくわからないけど、さっき掃除したところだからかも。ここも学校行事が近くなると物が増えるし今よりは雑多な感じになっちゃうよ」
「いやー、そういうことでもない気がしますけどね。部室ってよりも事務室って感じですもん」
「どうぞ」
沙月が四人分のカップをテーブルに並べて、良い香りを漂わせたポットから綺麗な所作でそれぞれに注いでいく。
いつか高いところからアーチを描くように紅茶注ぐやつやってくれないかな。
ちなみに加入直後は紙コップを俺に支給していたけど、不経済ということで専用のカップが用意された。
湯飲みなんだけど。空ちゃんには沙月たちと同じカップを提供しているのに。
まあ同じカップだと誰が誰のだかわからなくなるのは目に見えている。
俺が一人でお茶を淹れて使うこともないだろうけど、勝手に自分のカップを使用されたくないお年頃なんだろう。
空ちゃんは目をキラキラさせて、紅茶と沙月の顔を見る。
「わぁ~……お店みたいですね! 香りもすごくいいし」
「ありがとう」
眩しい笑顔を浮かべる空ちゃんと、それに少し照れたようにする沙月。
雰囲気は全く違うのにやりとりだけなら仲の良い姉妹のようにさえ思える。まあおねーちゃんっぽいよね、沙月。しっかりしてるところとか。
「あ、美味しい。毎日でも飲めちゃうくらいです!」
「そ、そう……」
「日本人は味噌汁がプロポーズの材料になるんだったら、イギリス人にとっては毎日紅茶を淹れてくれって言うのもプロポーズになるのかな?」
「静かにしてると思ったら……」
「いきなり意味不明なことを言うのはやめなさい」
「あの……すみません。私そういうつもりで先輩に言ったつもりはなくて……」
「大丈夫よ。わかっているから」
「振られてるよ」
「はったおすわよ」
ブリザードのような視線をいただいたので温かい紅茶で体を温め直す。マッチポンプ。
二年女子陣の俺へ向けられるジト目に隣の空ちゃんが困惑しつつも、話題を繋いでくれる。
「あ、あの。生徒会ってこの三人だけなんですか?」
「今のところはそうね。去年まで先輩、今の三年生の方もいたのだけど、受験もあるからということで年明けに辞めてしまったのよ」
「だからしばらくわたしと樽見さんの二人だったの。新学期すぐに日郷さんが入って三人」
「そうなんですねー」
「知らなかったー」
「いやなんで日郷先輩が知らないんですか」
なんでだろうね。
先輩いたとか新情報じゃない? 知っていても俺の行動が何か変わるものではないけどさ。
「彼は最近入ったから色々と疎いのよ」
「そうですか……っていうか日郷先輩、生徒会にいるのが意外でした。見つからないわけですよ」
「意外性の男だから」
「まあそれはそうなんですが。中学の時はずっと断ってたじゃないですか」
「宝成がね。やりたいとは思ってなかったし」
「高校入ってやりたくなったってことですか?」
いや生徒会自体には興味ないよ、と沙月と結季ちゃんの手前言うのは流石に憚られる。
それくらいの良心はあるのだ。
沙月が面白そうだから傍で一緒に遊んでいたいのがモチベなところがあるのだけど、それをここで言うことでもない。
適当な笑みで誤魔化していると、対面から助け舟がやってくる。
「二人は同じ中学だったの?」
「あ、ですです。日郷先輩とサッカー部で、私はマネしてました!」
「マネ……?」
「あ、マネージャーです。ドリンク準備とか備品整理的なことやってました」
「なんか……意外」
「あははー。よく言われます。サッカー興味なさそうって。まあ実際そこまで好きなわけでもないですけど」
「それもどうかと思うけど……どちらかというと日郷さんの方がね」
「その男によく協調性が求められる団体競技ができたものね」
「スポーツのルールを覚えられたことが奇跡」
「先輩先輩。なんかそこの美人二人めっちゃ当たりキツイですけど、なにしたんですか?」
「このツッコミの鋭さが彼女たちの売りだからね」
「そんなもの売ってないわよ」
ピシャリと沙月に断じられ、隣で結季ちゃんもうんうんと頷いている。
冗談めかして言ったけど、この二人が俺の適当な発言をきっちり拾ってくれるのは好きだよ。
知り合って浅いのにこういうことを言っても曖昧な笑みで流さず、ちゃんと打ち返してくれるのと会話している感が出る。
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