48.回収

「……それで、その子は?」


「拾った」


「拾われました!」


「前振りではなかったのだけれど……」


 生徒会室に戻った俺たちを呆れた様子で沙月がため息で迎える。


 俺だって伏線回収をしたいから連れてきたんじゃないのでその反応も困る。ゴミ捨てで伏線張って生きてないよ。


 しかしゴミを捨てるところで回収するというのもちょっと面白いな。捨てる神あれば拾う神だ。

 

 沙月は小さく嘆息して、俺の隣でずっとニコニコしている彼女に問いかける。


「貴方、一年生よね?」


「はい! 高科空です!」


「そう。それで、高科さんは……」


「というかあの生徒会長さんですよね!? マジで綺麗ですね! この前の生徒会が教室に来た時友達と食堂に行っちゃってたんで会えなかったんですよー。なんで生でこうやって会えて嬉しいです! 高校のパンフに会長さんの写真載ってた時から芸能人みたいですごいなあって思ってたんですよ。加工なしの写真であんなに綺麗なのヤバイじゃないですか。私も普段のケアは美容動画見たりして結構やってる方だと思ってたんですけど、会長さんみたいな雰囲気は出せないなーって感じで。かわいいと綺麗系は違うみたいな? というかどんな動画見るよりも会って聞いた方がタメになりそうって思ってたんですけど、先輩にプライベートのこと聞くために生徒会に行くってなんか敷居高いじゃないですか。特に用事もないしきっかけないなーって思ってたら、日郷先輩が生徒会だって聞いて今しかない! って感じですよ! あ、とりあえず連絡先交換しません?」


「……………………」


「え、なんで難しい顔してるんですか?」


「空ちゃんは元気いいね」


「なんですかそれ」


 スマホを持ったままきょとんとした表情の空ちゃんと、処理落ちしてフリーズしている沙月を見て思わず笑ってしまう。


 空ちゃんは沙月と結季ちゃんに比べるとやや小柄で、二人とはタイプが違う可愛い系な雰囲気だから混ぜてみると違う空気感になる。


 二年女子ズの作る空気感が特別大人びてるし、良い感じに丸くしてくれそうだ。


 結季ちゃんが目を白黒させてフリーズしたままの沙月の再起動を試みて肩を揺すっている。


 人見知りってわけじゃないだろうし珍しい反応だ。あの元気さに面食らったのだろうか。


 まあ空ちゃんみたいな明るさ存分の人間と相性は良くなさそうにも見えるけど。

 

 この学校は高校からの外部入学組が一クラス分いるが、中高一貫のエスカレータ組の方が割合は多い。


 中学の時から近寄りにくい雰囲気があり、周囲の人間と必要以上に関わる様子もなかったと葵が言っていた。


 葵いわく、太陽に近づきすぎた人間は地に落とされるのだと。要は仲良くなろうとしてばっさり斬られた人間が男女共に多かったそうだ。


 沙月の性格を間近で見ているとまあそうだろうなと思ったりした。

 

 とはいえ俺や空ちゃんみたいな外部入学組はそのあたりの内部組の作り上げてきた空気感のようなものを全ては把握していない。


 俺は知っててもあんまり気にしないだけだけど。


 沙月にしてみればこんなふうに物怖じしない人間からの久しぶりのアタックに戸惑っているのだろう。


 空ちゃんも打算で擦り寄っているわけでもないし、無碍にするのもはばかられる事情もあるかもしれない。


 という、俺の適当な推察。

 

 未だ再起動中の沙月に困った空ちゃんに、結季ちゃんが苦笑しながら歩み寄った。


「えっと……副会長の水鳥結季です。とりあえずあっち座ろうか」


「はーい」

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