47.お久しぶり

 ゴミ袋を片手に校舎裏まで行く。


 本格的な掃除の割に大した量のゴミは出なかったようだ。


 沙月がよく片付けしているし、日々の積み重ねは大事だ。 意外でもないけど、そういうところも彼女はきっちりしている。


 ちなみに俺の部屋は散らかり放題。


 定期的にハウスキーパーさん(母&妹)が乱入してくるので床が見える時期もあるけど、出したものを元の位置に戻さないので乱雑としている。


 でも片付けないだけでどこに物を置いたかは把握しているから、片付けられるとモノが探せなくなるんだよな。

 

 という言い訳をしたところで陽花からは冷たい目を向けられるだけだし、飲み終えたペットボトルとかちゃんと捨てにこいと怒られている。


 持って行ったら次はフタと本体と分けろと怒られている。


 校舎裏のゴミ捨て場付近まで行くと、同じようにゴミ袋を持った生徒たちが増えてくる。


 二人組の子たちがお喋りしている声が聞こえてくる。


「外部入学なんだよね。なんか新鮮ー」


「えー、なにそれ。みんなと変わらないよぉ」


 目の前の女子二人の会話が聞こえてくる。たぶん一年生。


 俺の進行方向を塞ぐように並んでいるので、その後ろを付いていくように俺もゆらゆら歩く。


 複数人が道を塞いでいて通行の邪魔だ! というご意見を見るけども、この状況だと後ろの人間はどうするのが正解なんだろうね。

 

 黙って間を割いていくのか、声をかけるのか、それとも諦めて後ろを付いていくのか。


 俺はこういう場合は普通に後ろを同じ速度でゆらゆらと歩く派。


 押しのけてまで急いでいるかと言われたらそんな切羽詰まった状況でもないことがほとんどだし、まあいいかなって。


 時間に間に合わないときは遅刻でいいやと投げ捨てている。


 逆の立場の場合でも後ろの人の邪魔をしたいわけではないし、気づいたら申し訳ない気持ちくらいは俺もあるので、まあお互い様だよね。


 悪意を持って塞がれているわけでもないのだし、正直どうでもいい。


 知らない人が何していようが興味がない。

 

 どうせ目的地が同じならあと数メートルほどの旅路だ。ただぼーっと歩いているよりは誰かのお喋りでもBGM代わりにしていた方が良い。


「ふみちゃんこそ中学受験でしょ?そっちの方なんかわーって感じだよ」


「いやーあたしは親に言われるがまま受けてたらいつの間にかこうなってたからなあ。全然だし。てか逆にそっちはなんでここ受けたの?」


「私? 部活の先輩がここに入ったって聞いて、追いかけてきちゃった」


「えー、なんかドラマみたい。会えた?」


「ううん。まだ。目立つ人だからすぐわかると思ったんだけどな」


「……ちなみにその先輩は、男? 女?」


「さぁ、どっちでしょう?」


「もったいぶんなよー」


 キャピキャピした笑い声を聞いて、元気だなーと思いながら後ろを歩く。


 しかし片方の女子はなんとなくどっかで聞いたことがあるような声だ。


 しかもつい最近話題に上がったような気もする。話題に上がったからそう思うだけだろうか。


 そんなこと思っていたら目的地に辿り着いた。


 ゴミ捨て場には委員らしき人がゴミを受け取って、置き場に最大限入るように積み込んでいる。


 ゴミの分別が細かい地域柄なので、一つ一つの種類ごとにまとめている人もいる。


 なんだっけ、干潟の保全がなんちゃらで分類が増えたとかって昔習った気がする。

 

 ゴミ捨てといえばよく漫画なんかで学校に焼却炉があったりするけど、今も使用しているところはあるのだろうか。


 中学の頃は使われていなくて落ち葉まみれのその跡地が残っていたりした。あれはいつくらいまで実際に使われていたんだろう。


 待機中の暇つぶしにそんなことをぼんやりと考えていると、前の一年生ズのゴミ袋からペットボトルのフタがポロっと飛び出す。


 そのまま何度か地面でバウンドするとコロコロと俺の方へと転がってきた。


「あ、ごめんなさーい」


 先ほどの会話から察するに外部から部活の先輩を追いかけてきたという子が俺に声をかける。


 両サイドを編み込みのサイドアップにした綺麗な茶髪をかき上げながらにこやかな笑顔だ。


 その笑顔は見る人も明るい気持ちにするような、愛嬌たっぷりでありながら媚びているわけでもない屈託のない可愛らしいものだった。


 そこにちょっと懐かしさすら感じている。


 とはいえスカートもだいぶ短めで見るからなオシャレ陽キャな年下の女の子には心当たりが、


「んんん?」


「あれ?」


 お互い見つめ合うような格好で謎の間が生まれる。


 ふむ。

 

 なーんかどっかで見たことあるような顔だ。


 やや釣り目気味で整った美人系と少女らしさの合わさった顔立ちに、屈託のない笑顔。


 確かにこの少女を俺は知っている。


 すると俺の顔を見つめたまま固まっていた目の前の女の子は慌てて立ち上がり、顔がぶつかりそうな距離で耳が割れる勢いで俺の名を呼ぶ。


「日郷先輩!? なんでここに!?」


「おー、空ちゃん。おひさー」


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