39.冷えたグラス
「で、兄ちゃんはなんで生徒会なんて入ったの」
生徒会紹介を終え、放課後の活動もゆるゆる終了した夕方の自宅。
陽花からそんな疑問を投げられる。
髪を一束にまとめ、制服からハーフパンツに半袖シャツをまくってノースリーブの着こなしという、四月の室内では寒そうな格好をしている。
運動神経も良く女子にしては活発なのが理由なのかは定かではないけど、暑がりな妹だ。
どれくらい暑がりかというと、冬以外はずっと夏みたいなもんと言っていた。んなわけあるか。
そんなわけで年中真夏日みたいな妹へのご機嫌取りには、適当なアイスを与えれて許される裏技が使えるのだ。
陽花は冷蔵庫から常備してある二リットルのペットボトルのジュースを取り出して、それを二人分のコップに注いでソファに座る。
その視線を察するに隣に来いということだろう。
俺の分までわざわざ用意してくれたのだし、素直にご相伴にあずかろう。
でもまだこの時期に氷たっぷりのキンキンに冷えた飲み物はお腹壊しそうだよ。
兄妹並んで腰かけて飲み物に口をつける。ん-、つめて。
「んで、生徒会がなんだって?」
「あの後よく考えたら兄ちゃんが生徒会っておかしくね? って思ったんだよね」
「生徒会がおかしいって……似合わなすぎって意味だよな?」
「異世界転生主人公みたいに言うな」
「生徒会は変なところじゃないよ」
「変なのはお前だ」
身内からの評価とツッコミが厳しい。
というかこのジュース冷えすぎだろ。まだ氷残ってるし、お店のかさ増しされたジュース並みの投入具合だ。
熱い飲み物はふーふーして時間経てば飲めるけど、冷たすぎる飲み物っていつが飲み頃になるんだろう。
そんなジュースを美味しそうにガブガブ飲んで、隣の身内は語り掛ける。
「いや、あたしとしてはちゃんとしてくれてるんなら別にいいんだけど。急にらしくないことしてるから一応聞いとこうと思って」
「らしくないときたか」
「ないよ。そんでらしくないことをすると大抵なんかやらかすのが世の常ってもんよ」
まだ十五しか生きていないのに世の中をしたり顔で語っているが、まあ言いたいことはわからなくもない。
ドラマや映画だとそうやって普段やらないことをやった人物は展開的にこいつ死ぬな、ってなるもんね。
逆に自分らしさを最後まで貫いた者は意味のある最期を迎えたり、生き残ったりしているイメージだ。
じゃあ俺の自分らしさとはなんだろう。
何をやっても他人事のようでついに自分すら他人事にしてしまった人間に、自分らしさなんてあるのだろうか。
頭を振って暗く落ちていきそうな思考を意識の外へ追いやる。
「まあ楽しそうなこと探しの一環、みたいな?」
「バカな大学生みたいな発言。また何も考えずに適当にやってるだけでしょ」
「おー、テレパシー」
「十五年も妹やってればそれくらいわかるよ。大体生徒会なんて絶対興味ないでしょ」
「全くない、というほどでもないけどね。なんか名前の有名さに比べて何やってるかって知らないから面白そうじゃん」
「今時小学生でもマシな動機語るんだけど?」
「まー確かに人の上に立つとかは面倒だなって思うよ。タイプじゃないし」
「生徒会が合ってるかは別として、昔から妙な人望だけはあったから案外そうでもなさそうだけど。色んな人に顔が利くのは役に立てるんじゃない?」
「人望あったんだ」
「顔が良くて人畜無害そうだったら女子は寄って来たでしょ」
「寄ってきたけどずっと近くにもいなかったことない?」
「アホさに気づいて遠巻きに見た方が良いってなったんだ」
「アホが理由で離れていくって、相当悲しい理由じゃない?」
というかさも事実みたいに言うな。どっちかと言うと俺が逃げた側だし。
「そういえば前も生徒会に誘われてたよね」
「立候補者いないからってやつ? あったあった」
結局入らなかったけど。
学級委員長も経験はあるけど、中学の最後だけだ。
それ以外は立候補しろって向けられる視線に気付かない振りしてやり過ごしていた。
そうしているとなんやかんや誰かが立候補してくれるものだ。
真面目そうな子だったり、運動部所属のお調子者系だけど空気が読める子だったりがやってくれることが多かった。
本人が嫌々なのだとしたら申し訳ないけど、俺も嫌だしね。
「あの頃は部活あったからやらなかっただけで実は興味あったりした?」
「うーん」
「まあ誘われた時に断ってたのは兄ちゃんじゃなくて宝成君だったけど」
「そうだったね」
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