37.フラグを立てたら飛び蹴りがやってくる
なんてフラグを考えていたからだろうか。
俺の危機察知センサーが反応し、悪寒が走る。
その気配の方を振り返ると前方から見覚えのある顔が全速力でこちらへ向かってきていた。
そうだった。ここは一年生のフロアなんだ。
つまりここが奴の生活ラインで、そんなところにみすみす俺が入り込んでしまったわけだ。
いつエンカウントするかなんて時間の問題だったのかもしれない。
とにかく逃げるか。しかし自由の利かない体と両サイドには女子陣二人。
ああ、逃げるのは無理だなあ、なんて他人事のように考えていると、
「死ねえええええええ!!!」
怒号と共に飛び蹴りがくる。それをすんでのところで華麗に受け流し──できなかったのでもろに喰らう。
そのまま後ろに倒れ込むと馬乗りになって追撃を喰らわせようとしてくる。
「タンマタンマ!」
「身内の恥はここで始末する!」
「始末て。助けてー、沙月ぃ」
「……生徒会長としての正しい行動は暴力を止めることなのだけれど、このまま殴り倒してほしいという感情を否定できないわ」
「いや流石に止めてあげた方がいいよ」
「……冗談よ」
冗談に聞こえないよ、沙月。
というかずっと目が死んでて、いつもとは違う意味で怖いんだけど。そろそろ復活してよ。
沙月は一つ咳払いして、いつもの凛とした姿に少しだけ戻る。
「暴力はダメよ。貴方も女子なのだからなおさら」
「あ、すんません……って綺麗な人が二人も!」
俺を仕留めることだけに捧げていたせいか、後ろの二人に今頃気づき驚きの声を上げていた。
驚きながらもしっかり俺のボディに一発入れているので油断ならない。
今度はぐいっと着ぐるみの胸倉を力づくで持ち上げられて、首がえらい勢いで振り回される。
放せの意を込めて腕を軽くはたいてみるが、意にも介さず驚嘆と怒りが混じったような声で問い詰められる。
「どういう関係?」
「愛人一号と二号」
「そのまま殴っていいわよ」
「思う存分やって」
「りょーかいです」
「うそうそうそうそ! 言う言う言う言う! 生徒会の人たち!」
沙月は凍えるような視線で微動だにせず、結季ちゃんは親指で首を切るポーズで吐き捨てる。
結季ちゃんの方は仕草こそ過激だけど表情は明るいし面白がってるだけだ。
やっぱり樽見さんが一号なのかな? と会話を続けて、沙月がそれを軽いチョップで打ち切る。
そんな二人の微笑ましい掛け合いとは別に、こちらは不信感を隠そうともせずに問い続ける。
「生徒会ぃ? また適当言ってない?」
「俺がお前に嘘ついたことあるか?」
「三回に一回は嘘だし、残りの二回は適当に返事してるだろーが」
「てへぺろりん」
「なんだそれ……そもそも生徒会の人たちが昼休みにこんな着ぐるみ使ってふざけてるってわけ?」
「…………(大ダメージ)」
「立ったまま死なないで! 気を確かに!」
「現実を受け止めろ、
「名探偵がね。えっと……本当に生徒会の人ですか?」
「……そうよ。生徒会長の樽見沙月」
「副会長の水鳥結季です。えっと……」
「あ、誠に遺憾ながら、このアホの妹の陽花です」
「やっぱり。目元とか似てるなーって思ってたんだ」
「二人で並ぶとよく言われますね……ってか聞いてない! なに、生徒会って」
「あー。言うの忘れてた。春からスカウト」
「忘れるか普通……えっと、経緯はよくわかんないですけど、大丈夫ですか? このアホが迷惑かけてまくってそうですけど」
「「…………」」
「というかマジで早く言ってよ。兄ちゃんアレなんだから挨拶くらい行ったんだからさ」
「「…………」」
「どうしたんすか?」
「「まともな子ね(だ)……」」
「初対面でそんな評価あります?」
「妹がいるとは聞いていたのだけれど、そこのと同じ系統なのかと心配していたわ」
「やっぱり上がアホだと下がしっかりするっていう兄妹理論なのかな。わたしのおねーちゃんも……自由人だし」
「うーん。兄ちゃんも大概だけどこの人たちもなかなかだなあ」
馬乗りのまま陽花が唸っている。
まだ沙月も結季ちゃんも出会って一週間くらいなんだけど、だいぶ俺に対して遠慮がなくなってきて辛辣になってきた感じがする。
というかそろそろ重いし、いつまで俺は寝転がっているんだろうか。
「それで今日はこのバカを連れて何用で?」
「生徒会について一年生に紹介を……したかったのよ……」
「なぜ後悔の念を。って、あー。さっきからクラスLINEが盛り上がってた生徒会のやつってこれのことっすかね」
「そうね。どう盛り上がっているのかは聞かないでおくわ。というか言わないで。聞いたら新学期早々立ち直れなくなりそうだから」
「見た感じ不評って感じじゃないんですよ。まあ聞きたくないなら言わないっすけど」
不評じゃない、つまり好評ということ。世の中それくらい単純に考えていると心が絡まなくて済むんだろうな。
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