33.ファーストインパクト

 沙月が先生のように手を叩いて、二人分の視線を集める。


 ちなみに本当の先生は今日もいない。というか今のところ初日くらいしか来ていないんだけど。


 まあ他の部活と違って大会やら発表やらがある訳でもないのだし、顧問が毎日来る必要もないからいいか。


「紹介内容は例年通り去年までのものをベースにして、そこから自分たちなりに手を加えていくものでいいかしら」


「そうだね」


 沙月は机から持ってきたA4のプリントを俺たちに渡して、結季ちゃんが頷いている。


 そこには生徒会の活動内容が箇条書きで記されており、クマっぽいかわいらしい絵が載っている。


 さっき見た沙月の絵柄とは違うし、昔の生徒会の人が書いたのだろうか。


 結季ちゃんがゲーセンで取ったぬいぐるみと似てるけど、なんか流行ったキャラクターなんだろう。


 とりあえずざっと眺めて、思ったことを呟く。


「……普通だね」


「それに関しては強く否定しにくいわね」


「でも部活や委員会の紹介はそんなものだよ。教室じゃ派手なパフォーマンスもできないしね」


「いやいや。これじゃあ普通過ぎてスパイスが足りないよ」


「要るかな、スパイス」


「えー。だってそんなどこかで聞いたような定型文を話されたって誰の印象にも残らなくない? ちょっとでも『おっ』って思ってもらってこそじゃん」


「それは一理ある」


「高尾君もたまにはまともなことが言えるのね」


「だからやっぱりガツンと忘れられない思い出にしないと」


「そうは言っても何かそんな印象深い紹介なんて今からできるかな」


「例えば……そうだねえ」


 ふむ。思いつくまま喋っているので全く案とかは思いついていないのだけど、何か考えなくては。


 今からできて、インパクトに残るもの……。


「窓からガラス割って登場とかいいよね」


「窓割って登場する組織は一体何をするところなの」


「紹介のラストにはプレゼントのキーワードの発表です」


「テレビ番組でよく見るやつ」


「今加入した人には特別なプレゼントを」


「テレビCMでよく見るやつ」


「えー。じゃあもうお手軽なところで二人が水着で教室行けばいいんじゃない」


「季節外れだし、嫌。お手軽でもないよ」


「そんな邪な気持ちで入って来られても迷惑ね」


「一緒にやるなら真面目な人がいい」


「俺みたいなのがいる時点でいまさらじゃない?」


「ぐうの音も出ないわ」


「ぐう」


「…………」


「と、とりあえず内容については一考しよっか」


 沙月のイラっとした空気感を悟ってか結季ちゃんが話を戻してくれる。良い子だ。


 そして沙月は怖いというか案外感情的になるんだなと最近思う。見た目は何事にも動じなさそうな落ち着きがありそうなのに。


 まあ無感情でいられるよりは感情的になってくれた方が俺もやりやすい。

 

 沙月が一つ息を吐いて仕切り直して言う。


「スケジュールもあって大きくは変えられないわ。だけど高尾君の言っていることも理解しているし、当日は実際の反応を見てアレンジしましょう」


「うん。じゃあわたしも何か良いアイディア考える」


「そうだね。俺もなんか考えとくよ」


「水鳥さん、期待しているわ」


「へいへーい。俺もいるよ」


「……貴方に考えさせたら絶対ロクな事にならない予感がしてならないのよね」


「まあまあ。やる気のあることは良いことだよ。明日の集合時間とタイムスケジュールの確認しよ」


 そうして賑やかな放課後が続く。

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