31.口は災いの

「実力テストも終わったことだし、新入生へ生徒会の紹介に行こうと思うわ」


 沙月が俺の対面のソファに座り、紅茶の入ったカップ片手にそう宣言する。


 結季ちゃんもうんうんと頷いているので、この場でわかっていないのは俺だけのようだ。まあ大体いつもそんな感じだけど。


「なにそれ」


「この前言ったでしょう。覚えていない?」


「覚えてると思う?」


「堂々たる振る舞いだね。言ってることは情けないけど……」


「聞いた私の失態ね。ごめんなさい」


「そこで謝るのもどうなのかな……」


 結季ちゃん、一つ一つ全部拾ってくれるなあ。


「ところで高尾君。生徒会としてのメンツもあるから一応聞いておくけれど、テストの結果は?」


「ご想像の通りさ」


「何を無駄にカッコつけているのよ……いえ、悲惨なことくらいはわかっているのだけれど」


 やれやれと首を横に振る沙月。


 どこまで想像してくれたかのかは沙月によるが、一応一つもダブルレッドポイントまでは達していないのでセーフ。赤点の赤点。


「週末も勉強していないのでしょう?」


「日曜はやったよ」


 半分遊んでたけど。


「土曜日は?」


「結季ちゃんとデート」


「けほっけほっ!」


「えぇ……」


 ちょうど紅茶を口に含んでいた結季ちゃんが咳き込み、沙月はなぜか引いていた。


 沙月は口元を拭いている結季ちゃんをちらりと伺いながら、大きく嘆息する。


「まあどういうお付き合いをするかは当人同士で自由にしてくれて構わないけれど……随分と手の早いこと」


「お褒めに預かり光栄の至り」


「褒めていない」


「違うから!」


 ようやく復帰した結季ちゃんが赤い顔でわたわたしながら弁明を始める。


「確かに日郷さんと偶然会ったし、遊んだりしてたから客観的に行動だけ見たら事実なんだけど……」


「会ったのはともかく、一緒に遊ぶ必要はなかったのでは?」


「い、息抜きも必要だと思うし……」


「貴方には必要な時間でしょうけど、そこのはまず息を入れることの方が先決よ」


「でも樽見さんが思ってるようなことじゃないから!」


「ごめんなさい。今の発言から否定できる材料がなかったのだけれど……」


「やらしいことはしてない!」


「そんなことを堂々と言われても。判定基準はそこでいいのかしら……」


「でも手つないで腕も組んだじゃん。あれは遊びだったなんて……」


「言わなくていいことを!」


「男女逆のやり取りじゃないかしらこれ……」


「違うの! 違わないんだけど色んな不幸と偶然が重なっただけなの!」


「何があるとその状況になるのよ」


「その辺の記憶はぼんやりしてるから上手く説明もできないんだけど……たまたま事故みたいにそうなっただけなの!」


「と言っているけれど?」


「結季ちゃんの方からノリノリで組んできました」


「その口を縫い付けたい!」


 空に吠えている結季ちゃんを肴にお茶を一口。


 言うなと言われれば俺も別に言わないけど、別に二人だけの内緒というわけでもなかったし。

 

 というか別にそこまで慌てているのもよくわからん。あの酔った姿を知られたくないからだろうか。


 あれはあれで面白いので味があると思うけど。


 俺を抜いた二人のやり取りがまだ続いていた。


「デートは事実としても、とにかくわたしにその気はないから!」


「それをここで宣言されても扱いに困るのだけれど……」


「というかなんか俺フラれてない? すげー流れ弾」


「私もそこまで本気にしていなかったのだけれど……そうまで必死になると逆に疑いたくなるわよ」


「でもわたしと日郷さんのカップリングは解釈違いだからどうしても否定しておかないといけないと思って……つい取り乱しちゃった」


「解釈違い? 意味がよくわからないのだけれど」


「とにかく無害! 安心安全!」


「何へ対するアピールなのか本当に理解できない……まあその様子を見るにちょっとした行き違いがあった、ということにしておくわ」


「そうそう。結季ちゃんも悪気があったわけじゃないんだし責めないであげて」


「別に責めてはいないけれど……というか他人事みたいにしているけれど貴方も当事者よ」


「今度は三人であそぼーね」


「その前にやることをやってから……いえ、もういいわ」


「なんだかどっと疲れた……」


「お茶でも飲んで落ち着きなよ」


「ありがと。日郷さんの余計な一言がなければもっと楽に終わったし、そのお茶を淹れたのは樽見さんだけど」


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