29.結界外
ゲーセン内のゲームを半分は回ったくらいで俺の予算が尽きた。
お昼代で使ってたし、それがなくても普段から金はないので仕方ない。
ということで今日は解散。
ゲームの中身はというと協力プレイ系は結季ちゃん無双で俺のやることがなく、二人で対戦系は宣言通りぼこぼこにされた。
その結果を見て大爆笑している結季ちゃんの顔はかわいいとかいう感情はなく、普通にタチ悪いなと思いました。
まだまだほろ酔い気分で隣を楽しそうにスキップしている結季ちゃんと歩く。
前を歩く結季ちゃんがにこやかに振り返る。
「楽しかったね~」
「まあね」
最初こそ戸惑いのほうが大きかったけど、途中からはこのテンションの結季ちゃんにも慣れてきた。
途中からは普通に楽しく遊んでいた。
一人でいるのも好きだけど、こうやって誰かとやいのやいの言いながら何かをするというのも、心に潤いをもたらしてくれると思う。一時的でも。
二人でビルと街灯に照らされた道をゆったりと進む。
会話こそ散発的だけど、こうして並んで帰っているだけでも少し心が軽い気もした。
そういえば誰かと一緒の帰り道というのも随分と久しぶりな気がする。
葵とは遊び終わったらそのまま解散なことが多いから一緒に帰ることはあんまりない。
普段は言うまでもなくずっと一人だ。
もちろん共にいる相手は誰でもいいというわけじゃないので、やっぱり今日の時間が楽しかったんだろう。
人生の楽しくないことばかりに目が行ってしまうから、こうして楽しいと思えることすらも疑ってしまうことがある。
それでも時折ちゃんと自分の心と向き合って、確かめてあげないと本当に消えてしまいそうになる。
たとえそれが砂漠にある一滴の儚い水滴でしかなかったとしても、ないよりはあった方が良い。
そんなことを思いながら歩いていると、少し前を歩いていた結季ちゃんの動きがピタリと止まって、ぎこちなく俺の方を向く。
「…………」
「どしたん」
「酔いがさめた……」
「おー、謎のタイミングで」
「たぶんゲーセンから離れたからだと思う」
「そんな範囲制限のある効果なんだ」
「……記憶が怪しいぬいぐるみがある」
クレーンゲームで取ったやや大きめの謎のキャラのぬいぐるみを不思議そうに見つめている。
ちなみにそれは俺が取ってあげた、みたいなデートの定番イベントは起こらず、結季ちゃんが自力で引き揚げていた。一発ツモ。
というか酔っぱらいムーブはしてたけど、記憶も失うタイプの酔い方までするの? ゲームで?
「今日のこと覚えてる?」
「うん。でもどこか自分のことじゃないみたいな感覚がする」
まあ別人格みたいになってたしね。
俺もお酒飲んで酔っ払ったら同じようになって、全てを忘れて楽しんでみたいものだ。その日を楽しみにしておこう。
自分の未来のことは置いておいて、まずは平静を取り戻した山吹色の髪の少女に伝えるべきことがある。
「結季ちゃん」
「なに?」
「一人でゲーセン行っちゃ駄目だよ」
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