26.お誘い
すっかり食べ終わったお皿と、お互いに飲み終わってしまったカップが静かにたたずんでいる。
お店の混み具合もやや増してきた。まだ粘れないほどの騒がしさではないけど、俺としては潮時だ。
とはいえせっかくの結季ちゃんとエンカウントしたのだからこのままサヨナラでは味気がない。
俺も孤独主義ではないので、仲良くなれるのなら仲良くしたいのだ。
その繋がりが俺にとって生きていく際に必要不可欠なものでないだけで。
「結季ちゃんはこの後時間大丈夫?」
「うん。今日は家に帰って軽く復習するだけ」
「まだ勉強するんだ」
テスト前で根を詰めたいのは理解できるけど、そんな勉強勉強では息が詰まってしまうだろう。
となるとリフレッシュできるような場所がいいか。
気分転換ができて、結季ちゃんが好きそうなとこ……。
「じゃあゲーセン行こっか」
「何がじゃあなのかはわからないけど……突然だね」
「息抜きにデートしようぜい」
「で、デートって……」
恥ずかしそうに視線を外す結季ちゃん。
いや特に深い意味はないのでそう頬を赤らめられてもこちらも対応に困っちゃうぞ。
会って二回目の女の子を口説くほど俺もナンパ野郎ではない。
まあそんなことはどうでもよくて。
「ゲーセンはよく行く?」
「最近は行かない。コンシューマの方がメインだから」
「こんしゅーま?」
「家庭用ゲームのこと」
「へー。ならちょうどいいか」
「日郷さんは?」
「俺もたまにかな。玉を打つとお菓子が貰えるやつくらい」
「玉を打つとお菓子? クレーンゲーム的なやつかな」
「何故かそのお菓子を隣のお店で換金してもらえるんだよね」
「三店方式! ゲームみたいなものだけど未成年はダメ!」
「じょーだん。俺がやったらお金なくなりそうだからやらないことにしてるんだ」
「もっと違う理由で思いとどまってほしい……」
「普通のゲーセンはお金に余裕があればかな。一日時間潰せるのはいいよね」
「……たぶんそういうところが不良扱いの原因だと思うな」
「そう? まあいいじゃん。いこーぜ」
「うん。いこっか」
二人で一緒に立ち上がる。
おっと。まずはこのトレイを返してこなければ。
先に店外にいていいよ、と手で合図だけして、俺と結季ちゃんの分を手に取って返却口へ行く。両手でトレイ持ってるとバランスゲームみたいだ。
店の外に出て、一層大きくなる人のざわめきを感じる。
すぐ近くにいた結季ちゃんに並んで、声をかける。
「おまたー」
「……日郷さん、なんか女の子の扱いに慣れてそうだよね」
「人をナンパ野郎みたいに」
「小さい気遣いが高評価」
「あ、褒める流れだったんだ」
褒めてくれるのなら悪い気はしない。
あとこれは女子対応ムーブというより、お兄ちゃんムーブの方だ。
下がいると上はなんやかんや色々お世話してしまうものだ。まあ最近はかなり介護される側になりつつあるけど。
絶妙に感情が読み取れない表情で結季ちゃんが見つめてくる。
「無駄にモテそう」
「無駄は余計じゃない?」
「今更だけど、彼女さんとかいないんだよね。わたし修羅場には巻き込まれたくない」
「修羅場って。いやいないけどさ」
「意外、でもないかも。日郷さんと釣り合う人もなかなかいないだろうし」
「さっきから高評価だね」
「きっと日郷さんの彼女になる人は病み系かダメ男に引っかかる優秀な人かのどっちかだと思う」
「急に辛辣」
しれっと俺をダメ扱いしたぞ。
強く否定する気もないけど、上げたり下げたりされてはどう受け止めたらいいのかわからん。
結季ちゃんは真顔で厳しいことを言ったと思うと、今度は冗談めかした表情で笑って歩き出す。
「じゃあ、いこ。今日はわたしと遊んでくれるんでしょ?」
「そのつもりで。行きますか」
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