15.中ボス戦
「まずは要点だけ言いましょう。高尾君、貴方を生徒会にスカウトします」
「スカウト? いいよ」
「まずは説明を……って軽!」
「お~、珍しいツッコミ方するね~。キャラブレてるよ~」
「動揺もします。え、そんなにあっさり受け入れられるようなことかしら……以前から生徒会に興味とかあったの?」
「ううん。生徒会が存在することを昨日知った」
「いや軽すぎるでしょ。どれだけふわふわしているのよ貴方。私が言うのもなんだけれど、もう少しよく考えなさい……」
「いいじゃん。こういうのはノリで」
「世の中大体その場の勢いとテンションだぞ~」
「どうして二対一になっているんですか。しかも私が説得される側みたいになっているし」
「高尾君、今日からキミも生徒会役員だ~!」
「イエーイ」
「なに、この人たち……」
とーかちゃんとハイタッチを交わす横で、沙月がより冷たくなった視線をこちらに向ける。
ちなみにとーかちゃんは他の先生が周りにいない時なんかはこんな感じだ。
誰にも見せている姿ではないのだろうけど、この適当さは先生として大丈夫なんだろうか。
「もう一度聞くけれど、貴方、生徒会役員になるということ、分かっているの?」
「んー」
「……その気の入っていない返事はなに?」
相槌も曖昧なのは、よくわかっていないから。
告げられた言葉が理解に辿り着いていない。
スカウトって響きが芸能人とかスポーツ選手みたいでカッコよかったから適当に合わせただけだし。
よく考えるとなんで俺が生徒会入るんだろうか。
とりあえず一旦落ち着いて、言われたことを復唱してみよう。
俺が生徒会役員にスカウト。
生徒会の、役員。
ふむ。
なるほど……。
わからん。
考えてわかるようなことじゃないとも思うので、諦めて紅茶をすする。
美味しい。
「美味しいね。これ」
「ありがとう。さっきも聞いたわ」
「言えるときに何回だって言わなきゃ」
「それは良い心掛けだけれども……」
「樽見ちゃん。この子はそれっぽい雰囲気で誤魔化しているだけだよ。たぶん生徒会のことなんも分かんなかったのだと思う」
「子供ですか……」
「良い感じの雰囲気出して、良いことっぽいけど中身の何もないこと言われるとうっかりそのまま流しそうになるからね~」
「随分悪質な手口ですね」
「めっちゃ悪口言うじゃん、目の前で」
流石にご本人を前にして言われたい放題だと少しくらいは傷ついちゃうぞ。
それはそれとして、この手口はとーかちゃんに使いまくったからそろそろ違う方法を考えないとな。
「ま~とりあえず、生徒会にスカウトの理由はあたしも知りたいかな~」
「……そうですね。本当はそこから説明するべきなのでしょうね」
生徒会長さんはそう言うと眉をひそめて俺を見る。
何かのアイコンタクトかな。
とりあえず見つめ返してみるけど彼女の意図は全然読み取れない。
無理かー、テレパシー。
視線を合わせたままひらひらと軽く手を振ってみる。
「若いもんでな~にをイチャついてんだ?」
「していません。はぁ……色々と言うべきことはあるのですけれど、高尾君」
俺の名を呼び、今度は真面目な表情を作ると一呼吸おいて、目の前の女の子はもう一度俺と視線を交わす。
「生徒会で、お、面白いもの、見せてあげるわ……」
一瞬で力強さが消えた言葉尻になっていった。
視線もだんだんと下がっていき、顔も心なしか赤く染まっていた。
これは、なんだろうか。
いや可愛いけどね。俺がこれまで見てきた姿とのギャップがあって。
昨日の帰り際に「貴方を生き返らせてあげる」ってカッコよく去っていってたのでそこまで恥ずかしがらなくてもいいのにね。
もしかしてあの後もこんな感じだったのかな。そう思うと先ほどまでのクールさからの落差で随分と面白い。
それよりも隣のとーかちゃんが腹を抱えて爆笑しているのが視界に入ってくるのも気になる。
そしてその姿を見てさらに真っ赤になってちょっと涙目で睨みつけている会長さんも面白い。
「確かに。面白いね、この状況」
「ものすごく不本意! 違うのよ、そういう意図ではなかったのよ。というか先生笑いすぎです!」
「ぶははははははははあはははは!!! 決め台詞だせえ~! も、もっかい言って! さっきのやつ、もっかい!」
「子供ですか。というか二度も言いませんあんな恥ずかしいこと。この人が本当に教職者なのか疑わしくなってきました……」
「いや~笑った笑った。真面目で頭の固い子が周囲に騙されて言われた通りやってみたけど途中で恥ずかしくなってきた、みたいなのを見た気分だよ~」
「状況としては似たようなものだとしても、それを笑っていいものなんでしょうか」
「セリフ的にはRPGの中盤の黒幕みたいだったね~」
「例えはよく分かりませんが馬鹿にされていることだけは分かります」
「ここで中ボスっぽいセリフ選手権~」
「は?」
疑問を浮かべている会長さんを横目にとーかちゃんのご指名を受け、立ち上がる。
腕を斜め下に伸ばし胸を張ってにやりと笑う。
「まずは小手調べといきましょうか」
「ぽいぽい~。幹部キャラだね~」
「はい、とーかちゃん」
「ふふふ……。ここまでですか……しかし私の役目は果たしましたよ……思い知るがよい、人間どもよ……」
「お。変化球だね。戦闘前じゃなくてあえて戦闘後の方で攻めるとは。倒した後に主人公側が陽動にひっかかったのを気づくやつ」
「ほい。樽見ちゃん」
「やりませんよ。遊びはそこまでです」
「お~。インテリ系の強敵出現のやつだね~」
「センスあるよ、沙月」
「くぅ……意図していない形で巻き込まれることのなんて屈辱か……」
「まあ要は言うなら言うで最後まで自信もってやらなきゃね~。六五点」
「最初のは途中で照れが見えたね。さっきのみたいに恥ずかしがらずにやり通すことを意識しよう。七〇点」
「審査しなくていい。どの立場から採点しているのよ。しかも絶妙に腹の立つ点数ね……」
生徒会室がアホな場に……となにやらうなだれている沙月を置いておいて、とりあえずカップの紅茶を飲み干す。
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