12.時を駆けなかった少年
あっという間に放課後。
隣の席の委員長ちゃんに授業の課題を写させてもらって、あとはスマホで色々なものをぼんやり見ていたら時間はすぐ過ぎていった。
スマホはなんでも応えてくれる天使のような一面もあるし、時間をすぐに食べてしまう悪魔のような一面もある。
本来人とのコミュニケーションツールであったはずだけど、一人でいくらでも遊んでいられる現代人の必須ツールとなってしまった。
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そして気が付くと放課後だ。
体感時間と違いすぎて、時間跳躍しているのか疑ってしまう。
時をかける少女だ。少年だけど。しかもあれ時間戻るタイプだったような。
それはさておき。
帰りのHRも終わり、周囲は帰り支度を済ませ、家路につく子、教室で友達と談笑する子、部活に向かう子など賑やかな教室の様相だ。
その姿を横目にカバンを持って立ち上がる。
「た、高尾君。また明日ね」
「委員長ちゃん。うん、またね」
「あ、さっき神海先生に生徒会室行くこと忘れないように、って。……何かあるの?」
「あー、あったね。そんなの」
「だ、大丈夫なの?」
「委員長ちゃんが思い出させてくれたから。だいじょーぶ」
「う、うん。ならよかった……?」
委員長ちゃんは小柄な体にはてなを浮かべながらも教室を後にする。
その姿に手を振りながら、カバンを持って席を立つ。
このままバリバリ帰るところだった。思い出したからセーフ。
このまま帰ったらまた明日とーかちゃんに怒られるところだった。無用なトラブルは避けられるなら避けたいし。
危機回避のお礼に明日委員長ちゃんにお菓子でもあげて感謝を形で示そう。そういえば昨日の分もまだ渡してないし。
場所を確認するためにとーかちゃんに貰ったメモを引っ張り出す。すると一緒に英語のプリントが出てきた。
帰り支度中の委員長ちゃんに聞くと、今日サボった授業で出された確認テストらしい。明日の授業で返却と解説するみたい。
成績評価に興味がないのでやってもやらなくてもどうだって良いんだけど、それで怒られるのも面倒だ。
という訳で、また席に戻って取り組む。
取り組む……。
取り組む…………。
「わかんない。わかんねえ。わからんなあ」
教室で一人居残って取り組んでみたものの、答えは出ないのに声ばかり出る。
そもそもの話だけど、問題文が読めない。
英語の成績が壊滅的だからという以外に、とーかちゃんお手製のプリントが筆記体でアルファベットの区別がつかないのがある。
もう帰ってしまった委員長ちゃんに聞きながらやればよかったな。気づくのが遅かった。完全な独力で挑むのは無謀すぎる。
とーかちゃんは子供の頃海外で暮らしていた帰国子女だ。
なので発音も流暢すぎて授業中もあまり聞き取れていない。わからないけどなんかカッコイイなと思って普段は聞いている。
そもそも母国語ですら昨日の生徒会長にもだし、普段から妹にも雰囲気で話して何言っているかわかりづらいと怒られている。だから外国語が分かる訳がないのである。
逆に世の中でなんでもかんでも横文字にして、それをさらに略したりもするせいで余計分からなくなっている気もする。
ノートパソコンが英語でないと知ったときに、もう理解することを諦めた。
現実逃避から帰ってきても、もはや文頭のWhatしか読めない……何って聞きたいのはこっちだ。
十分かけたところでギブアップ。自信を持って書けた箇所は名前だけ。
教科書からそれっぽいところを抜き出して、半分くらい埋めたやった感のあるは解答用紙にする。
正解かどうかは不明でも、とりあえず努力っぽい跡は見せる。頑張る姿は美しいという価値観もあるらしいしそれでいいや。
こういうのは出せばギリギリ許されるし。
課題プリントを適当にカバンにしまい、改めて生徒会室の場所が書かれたメモを手に取って教室を出る。
放課後に来てくれと言われても時間指定をされていないのでのんびり向かう。
まだ帰りのHRから一時間経っていない。
早すぎず遅すぎずちょうどいいくらいだろう。たぶん。俺の裁量に任せていいはずだ。
放課後のやや冷えた風を感じながら、吹きさらしの渡り廊下を歩く。
生徒会室は第二校舎の三階の奥部屋に位置しているようだ。
この学校は本校舎と第二校舎に分かれている。
本校舎には普通のクラス、生徒たちが朝登校し一般科目の授業を受ける教室があり、第二校舎には特別教室や文化部の部室がある。
特別教室は物理実験室や美術室とかそういうの。
この谷汲口高校は中高一貫の進学校だ。俺は高校からの外部組で落ちこぼれているが、一応他の外部組はちゃんと大学受験に目を向けている。
毎年生徒ほぼ全員が大学に進学しているし、数年に一人程度しか就職する学生はいない。
俺や葵のようなのもいるからつい忘れてしまいそうになるけど、俺たちがかなりのイレギュラーなのだ。
授業も受験対策が中心となるため、あまり主要科目以外の授業は積極的に行われていない。
第二校舎は図書室に行く時に入るくらいで、最近はあまり言った記憶がない。図書室へ行くのもそんなに頻繁にでもないし。
たまに新作の本が入荷した時とか読みに行くこともあるけど、数えるくらいだ。あまり漫画は仕入れてくれないからね。あっても微妙に古いやつだし。
欠席した授業の課題をやっていく時とか、とーかちゃんに授業の補習のプリントを見張られているときにも行くことがあったが、それも職員室から近いからってだけだ。
そんな感じで、第二校舎はほぼ文化部くらいしか用がない校舎である。
到着地点である生徒会室と書かれたプレートの部屋の前で立ち止まる。
こんなところにあったんだ。
そもそも生徒会が存在していることすらあまり意識したことがなかったけど。
その扉をノックする。
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