9.十分間タイマー
今から行けば四時間目の授業には間に合う。
葵は成績とか評価とか色々投げ捨てているが、出ていれば出席にカウントしてくれるのは俺は大事だと思う。
出たところで得るものはなくても。
下駄箱へ向かって、中と外の境界線に立つ。
休み時間は教室周りのざわめきが上の階から降ってくるのであまり静かとは言えない。
一〇分程度の時間限定だとしても、世界はこんなにも元気で溢れている。
上履きに履き替え、三度目となる自分の教室訪問をしようと廊下を歩き始める。
すると後ろから柔らかいもので軽く叩かれた。教科書か何かだろう。
痛くもないが「いてっ」と儀式なようなものとして呟いて振り返ると、呆れ顔の女性がそこにいた。
「高尾君さ~。今何時か分かってる?」
「わからない。でも、行くしかないでしょ」
「強敵に挑む主人公?」
来るならもっと早く来なさいと、今度は頭にチョップされる。これも儀礼として受けておく。
そのままついてでにと手のひらで頭をわしゃわしゃされる。
目の前には二十代中盤の女性。神海燈火先生こと、とーかちゃん。去年の担任教師だ。
気だるげな表情をいつものことだけど、さらに気力のない顔でため息をついている。
「キミのクラスの授業、さっきまで私の担当。新学年初回の授業からいないんだから困ったもんだよ」
「……そうだっけ?」
「昨日来いって言ったでしょ。時間割くらい確認しておきなよ~。とりあえず休み時間も終わっちゃうし次の授業に出なさい。お説教はあと。昼休み職員室ね」
「えー」
「来ないなら迎えにいっちゃうぞ~」
「しょうがない。じゃあ今日はとーかちゃんとお昼だね」
「お説教だっつーの」
軽いデコピンをくらう。今度は地味に痛い。
とーかちゃんは急げよ~、とだけ言って教室とは反対方向へと歩きだしていく。職員室にでも寄るのだろう。
その後ろが見えなくなるまで眺めてから、俺も教室へと歩いて行く。
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