2.冷たい廊下

 休み時間の校舎に入り、ガヤガヤと騒がしい廊下を進む。


 教室の横を通り過ぎるたびに俺に対して奇異の視線を向けられている気もするけど、こちらが視線を向ける前にすぐにそれも外される。


 気にしてはいないが、ああいう視線は知りたくなくても気づいちゃうもんだ。


 視線の意味は遅刻者を糾弾するものというよりは、珍獣を見つけた方が近いだろう。


 簡単に言えば不良さん扱いなのだ。別に悪ぶっているつもりはないので、それに対して思うところはあるけど。


 周囲と混じらず一人ぷかぷかと浮いているのは確かだけど、人様に語るほどの悪自慢や武勇伝もない。


 遅刻と無断欠席とバカくらいで不良扱いでは本職の人に失礼だ。本職の不良の人って誰かは知らないけど。俺も漫画くらいでしか知らない。


 この学校は県内有数の進学校だけあって、病気でもなければ遅刻欠席赤点常連の落ちこぼれはそうそうお目にかからない。


 だから俺のような人間は物珍しく感じるのだろう。


 適当なことを考えながら冷たい廊下を上履きでペタペタ鳴らしながら教室へ向かう途中、先の方で女子の黄色い声が聞こえてきた。声に色を付ける表現って不思議だね。なんで黄色なんだろ。


 声につられて視線を動かす。


 スラっとした綺麗な立ち姿で教師と話をしている女子生徒がいる。


 スカート丈を校則通りにし、卸したてなんじゃないかと思えるくらい制服に皴一つなく、背中まで伸びた長い黒髪を携えた後ろ姿はまるでお人形さんみたいだ。


 確かに立っているだけで絵になる。このフロアにいるということは同じ学年なのだろうけど、残念ながら全然知らない子だ。自分の交友関係の浅さを改めて感じる。


 思わず立ち止まって見てしまっていると、その女子が話していた教師と目が合う。


 去年の担任教師で神海燈火こうみとうか先生。親愛を込めてとーかちゃんと呼んでいる。そう呼んでいるのは俺しかいないけど。


 とーかちゃんはこっちに気づくとは腕から大きく手を振ってのんびりした声を響かせる。


「おーい、高尾君~。今日も遅刻か~」


「だいじょうぶー。次の授業から出るからー」


「全然大丈夫じゃな~い。まあいいや。明日のあたしの授業はちゃんと来なさいよ~」


「はーい」


とーかちゃんは困ったように笑いながら手を振って、それにこちらも手を振り返す。


 カバンを背負いなおして、止めていた足を再び動かして、もう一度ちらりと二人を覗く。

 



 隣の女の子は、ずっとこちらに視線を向けたままだった。

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