傘泥棒と友達の鈴木くんwithポチ
さて、クラスメイト共通の
ちなみに幹事から素晴らしいメッセージをいただいてるので読み上げよう。
「同窓会には行けません......皆には会いたいけど、季節外れのインフルエンザにかかってしまったので......」
ふざけろ。お前が呼んだ災害だろうが。責任持って後処理までしっかりしろ。
俺達は心の中で十字を切った。なんかノリとテンションで呼んじゃったけど、責任を丸投げできる担当が不在なら会いたくないのであの二人が来ませんようにと。
「よお、皆お揃いで」
「チッ」
まあ来るよね。時間通りに来る。遅刻とかそんなん全然しない。しかもなんなら二人で来たし。右窓際全方位威嚇して、左扉ぜって〜護るマンだし。左扉それ見てけらけら笑うだけだし。お揃いのタトゥーバッチバッチに入れてるし。あ、左扉そのピアス似合ってんじゃん。耳たぶ何処?ってくらいついてるけど。あ〜右窓際の舌ピ〜は完全に理解したから何も言わなくていいよ。大丈夫。服めくろうとしないで。大丈夫だから。
うん。分かったからもう帰っていいよ。
とは言えないのが大人だし、大人じゃなくてもこの二人にそんなこと言える奴はここにはいない。なので全員集合から食事会の流れに相成った。空気は葬式だけどな。
「いや〜招待状来た時はイカれてんじゃねぇかと思ったね!テメーら、俺達に青春ギタギタにされたこと忘れたんかって」
忘れるわけはないが、好奇心の方が勝ったのだ。猫は殺される方を気の迷いで選んじゃったのだ。恨むぜ、あの時の俺。
「......俺はなんかの罠なんじゃねーかって、言ったんだがな」
右窓際が取り分けた唐揚げに檸檬をかけながらそうムッスリした顔で言った。登場時の全方位威嚇はそういう意図があったらしい。
「ほら言った通りテメーに心配されることなんぞなかっただろ。役立たずは大人しくイイコにしてろ、ポチ」
「はいっ、ごめんなさい!愚かな犬の勘違いでしたっ」
キッツ。目の前で繰り出される何らかのプレイキッツ。俺よ。結論から申し上げると3年C組の爆弾は未だに爆弾のままだし、未だにあぶねぇ関係のままである。大人になったからちょっと大人しくなってたりして笑、みたいな考えは今すぐ捨てて幹事に猛抗議しろ。後の祭りの俺より。
こうして時折そこらで爆弾が爆発し、それに何人かが巻き込まれながらも同窓会は恙無く進行し、幹事代理が挨拶などして締め、何となく解散モードになった頃、俺は気付いた。あれ、左扉いなくね?と。
右窓際はいる。まだモソモソ何か食べてる。壊れちゃう前に仲良かった何人かと談笑してる。
左扉を探して俺は外に出た。前もって聞いていた通り、ポツポツと雨が降り出している。傘を取りに戻ろうかとしたが、左扉はすぐに見つかった。店の備え付けの喫煙所で安そうなビニール傘をさしながら、スパスパと煙草を吸っていた。左扉は俺に気付くと、ゆるりと煙草を持ったままの手を挙げた。
「よ」
「ん」
何となく近付く。工夫すれば屋根のおかげで雨に濡れずに済みそうだ。俺は左扉と特に親しいわけが当たり前だがない。しかし、俺には多分クラスで唯一、彼らの関係をより深く聞く権利があると主張したい。なので、俺は何となく分かりきったことに一歩踏み込んだ。
「あのさぁ、右窓際と今も......そうなん?」
「あ?見て分かるだろ?」
「わかるけどさぁ、友達の鈴木くんにはもう少し詳しく教えてくれても良くないか?」
俺の言葉に左扉は少し驚いたようだった。俺は内心バクバクである。次の瞬間、左扉に喉食いちぎられたりしたらどうしよ......。
しかし、それは杞憂だったようで左扉は弾けるように笑った。
「覚えてんのかよ!」
「寧ろお前が覚えてることにもビックリなんだけど......」
時を戻して、俺達が3年C組だった頃の話である。その日、俺は傘を探していた。午後から降水確率100パーセントということで持ってきたのだが、帰る頃には無くなっていたのである。何処かに忘れてきたのかと探し回っていると、中庭に俺の傘を堂々と差した左扉がいた。
左扉には傘を盗む癖がある。いや、癖なんてものではない。左扉にとって雨が降って傘が無ければ他人様の傘を勝手に使うというのは常識なのだ。なので平然と悪びれない。もし、そのことについて怒られたところで左扉はその美し顔パワーと口八丁の手練手管で相手から傘を譲り受け、謝罪を受け取り、濡れてもないのにクリーニング代を貰い、なんならタクシー代まで出してもらうだろう。そういうことをするし出来るのが左扉なのだ。
なので、左扉に傘をパクられたならもうそれは諦めて濡れて帰るしかない。濡れて帰って最悪風邪をひいたとしても、左扉に傘を返して欲しいなんて言うより、余程マシなのだ。俺が踵を返してさて、どれだけ濡れずに帰れるかな......と考えていると頭上にぬっと誰かの影が落ちた。
「なぁーにしてんの?」
最悪である。左扉ご本人からのコンタクトだ。心臓が嫌な感じにバクバクしてるのを押さえつけて何とか言い訳をする。
「いや、あの別に......暇だったんで......」
「あはっ、暇なんだ?」
「あっ」
言葉選びを致命的に間違った。ニンマリとチェシャ猫のように左扉が嗤う。
「なら今から面白いもんが見れるから見ていけよ」
左扉はそう言って、俺を雨の中に引きずり込んだ。
左扉に傘を分けようとかそんな思考は存在しないので、俺は秒で濡れ鼠になった。
「ちょっと待ってりゃすぐ来るからさ」
何が来るのだろう。何が悲しくて俺はこんな状態で招待も分からぬ何かを待たされるのだろう。悲しくなってきたな。
そして、その何かは左扉の言う通りちょっと待っていたらやって来た。
女児服を来た右窓際である。
ゆめかわとか言うのだろうか。ファンシーな服を身に纏った右窓際がランドセルを背負って登場した。それも雨でびしょ濡れで雨宿りに失敗した小学生みたいな出で立ちだった。
「こ、これで満足......っててめぇ誰だなんでここにいやがる!?」
やって来てから下を向き、流石に羞恥からかもぢもぢ......としていた右窓際は俺の存在を認めると即座に殺さんとばかりにブチ切れた。やめてくださいよしてください俺だっていたくているんじゃないんです。
「やーめろ、ポチ。コイツはなぁ......ええと、俺の友達の鈴木くんだ。覚えの悪いお前の躾の手伝いに来てくれたんだよ」
俺は左扉の友達でもなければ鈴木でもなかったが、否定すればどうなるかは火を見るより明らかなので首がぶち折れんほどに頷いた。
右窓際もご主人様の友達、と聞いて固く握りしめていた手から力を抜く。マジでやめて欲しい。それ、どうする気だったの?
「でも、こんな......恥ずかしい......」
「あ?犬が一丁前に恥じらってんじゃねーよ」
「くぅ......ごめんなさい......」
神様お願いです。明日から地獄の猛熱に苦しむことも受け入れますから、すぐにこんなイカれた空間から助けて下さい。
「じゃ、鈴木。今からちょーっと見ててね」
願い虚しく、俺は爆弾二人の色々に立ち会うことになったし、無事に風邪をひいて猛熱に苦しむことになった。それは対価であってお願いではねーよ。
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