第13話IGNigate


── 1ヶ月後、実力テスト翌日──


 ついに、あの退屈な授業の日々を乗り越えた。

 そして、クラス分けをするくだんの実力テストであるが、国語と算術を見直し含めてそれぞれ3分と、呆気なく終わってしまった。


 テスト結果が出た。

 成績は廊下に張り出されるらしい。



1位 リアム

2位 エリシア・ブラッドフォード

3位 フラジール

7位 アルフレッド・ヴァン・スプリングフィールド


 1位通過していた。


『よかった。あのつまらない基礎授業が少しでも長く続くと考えただけでも辛い』


 結果に満足だ。


「なんで僕がお前に負けているんだ……!それに7位って……」


 アルフレッドはテストの結果に満足いかなかった様だ。

 今も負けたと地団駄を踏んでいる。


「フラジールは3位。すごいね!」


 フラジールは結構優秀らしい。

 登校1日目にアルフレッドが学業について語っていた時、哀愁漂わせていた理由は彼女にあったようだった。


「い……いぇ……そんなことないです……」


 嬉しそうに、謙遜する。


「もっと胸を張れ……じゃないと僕の立つ瀬がない」

「ご、ごめんなさい」

「アルフレッドも良かったじゃない。ラッキーセブンで」

「なんだ、そのラッキーセブンとは?」


 おっと。

 自動翻訳あっても、こういう俗感的なことがたまに通じなくて困る。


「な、なんでもない」

「なんだその態度は、逆に気になるじゃないか!」


 よそよそしく訂正すると、煮え切らないアルフレッドがしつこくなった。


「見つけた……!あなたがリアムね!」


 アルフレッドとフラジールと談笑し、小さな喜びを分かち合っていると、名指しで呼ばれた気がした。

 どうしたんだろう。

 呼び出しでもあったかな。


 僕たち三人は一斉にそちらを振り返る。


 そこに立っていたのは、長く毛先を動かしたロングパーマのセットされた金髪に、頭につけた1輪の薔薇の髪飾りが特徴的な女の子だった。


「やっと来た。1時間も待たされるなんて……」

「誰だ?お前の知り合いか?」

「いや、知らない」

「……この私を知らない!?」


 あー。

 なんか面倒くさそうな子。

 初対面……の筈なのに、名乗りもせずに自分のことを知らないことを憤慨する。

 初期フレッド探知器がビンビン反応してる。


「どちら様ですか?」

「……いいでしょう!そこまで言うなら名乗りましょう!」


 急に圧をかける様な口調で胸を張ってくる。

 だがどうしてだろう……全然威圧感がない。

 あれだ。

 やはり初期フレッドと同じ匂いがする。


「私の名前はエリシア・ブラッドフォード!ブラッドフォード家の長女にしてようちイテッ……たんれい、せいせきゆうちゅうの完璧少女よ!」


 無理している感が凄い。

 しかし、口上を述べ終わった後も全く動揺せずに胸を張っていたのは見事。


「エリシア・ブラッドフォードさん……どのようなご用件でしょう?」

「なんでよ!そ・こ・の成績表に載ってるでしょ!それにあなた、吸血種の血を引く由緒ある名家!ブラッドフォード家のことを知らないの!」


 誰もが彼女の事を知っている様な言い回しをしているが、名前を名乗られても僕には全く覚えがない。

 そういえば目が赤い。

 吸血種の血を引いているからかな。

 改めて、目を合わせてみれば、透き通った紅の目には惹き込まれるものがある。


「知らないです」


 指を刺されて成績表も確認したが、初対面であることが覆るわけでもなく、知らないことは知らないし、捲し立てられても無知であることを恥じる気もない。


「こんな小さな子に負けた……」


 小さな子って……他の同級生のみんなよりは小さいけどさぁ。


「ブラッドフォード家のことも知らない……」


 それは、知らない。


「このスクールを引っ張っていく素敵な才女としてスタートを切る筈だったのに」


 フラットな年齢勝負なら君が一番って言ってあげたいけど、言えない。

 一番でなくても、才女の称号なら手に入ると思うが、これも言えた義理ではない。

 なんていうか……ごめんね。


「今日も朝日が昇る前に家を出発してその時を待っていたのに……」


 どれだけ楽しみだったんだろう。


「それなのに……なのに……」


 みるみる生気を失い塩らしくなっていく声に、高飛車なのかこっちが素なのか、ついつ嫌味ったらしい興味が湧く。


「うえぇぇぇん!」

「なっ──」

「気持ちはわかるが、泣くことない。なぁ、フラジール!」

「は、はいぃ……元気出して、エリシアさん……」


 黙り込んで小さな肩を震わせると、急に天井を仰ぎ泣き出した。


「うわぁぁぁん!」


 更に声を大きくしたエリシアは、なんと、そのまま何処かへと走り去ってしまった。


「「「……」」」


 突然スコールに降られ、突然上がる雨の様に、突如現れ突如過ぎ去っていくエリシアの背中を見送りながら、嵐に降られたリアムとアルフレッドはしばらく放心して立ち尽くし、フラジールは助け求めるべく挙動不審にキョロキョロと終始うろたえていた。



──1限目──


 エリシア・ブラッドフォード。


 嵐の様に過ぎ去っていった彼女に降られたものの、いつまでも廊下でパイロンやってるわけにもいかず、持ち直して次の授業に臨む。


「それでは、これからクラス分けを発表します」


 黒板に大きな紙を数枚貼り付け、教壇に立つケイトが、これからクラス分けを発表する旨を1-4生徒全員に向けて発言する。


「まずはDクラスから ── 」


 一番下のDクラスから名前が読み上げられていく。

 名前が呼ばれた生徒たちは口々に溜息や不満を漏らしていた。


「次はCクラスです」


 Cクラスで呼ばれた生徒たちからは、Dクラス同様不満やため息がの声が見受けられたが、基礎授業の巣窟であるDクラスを回避できた安堵の声も混じっていた。


「次はBクラス」


 その後はBクラス、そしてAクラスと名前が呼ばれ、徐々に安堵の声や喜びの声が多数を占める様になってきた。


「では、Sクラスの発表です」


 待ってました!

 遂に来た!

 そして、僕の名前はまだ呼ばれていない!


「その前に、特別枠の方々。特別枠の方々は各々自分自身のクラスをわかっていらっしゃると思うので今回は発表を控えさせていただきます」


 おぉー、焦らすと思わせてからの技あり。

 特別枠の生徒はお金を払ってSクラスに入る生徒たちであるし、名前を呼ばないのは後々少しでも厄介な垣根を残さないため、おそらく先生なりの配慮なのだろう。


「コホン!このクラスからはSクラス3枠の内、2名の生徒がSクラスの生徒として選ばれました。仮とはいえこの1ヶ月間、このクラスを担当していた身としてはとても喜ばしく、そして誇らしくあります。他のクラスで呼ばれた皆さんも、是非、彼女達をお手本に日々精進してください。それでは、発表したいと思います」


 客観的で常套語のような気がするが、なんだかんだケイトは、生徒に感情移入しやすいタイプの教師だと思う。

 この1ヶ月間で、その様はよく見て取れた。


『そう考えると感慨深いものがあるな』


 長かった様な短かった様な、この1ヶ月間過ごしたクラスとも遂に別れる日が来たのだ。

 込み上げてくるものがある。

 主に喜びである。


「それでは、発表します。Sクラスに選ばれたのは……出席番号25番フラジール、出席番号12番デイジー・リトルです」


 名前の読み上げが終わった。

 教室の一角から「やったー」と一人の生徒から喜びの声が上がり、教室の中では祝福の拍手が鳴り響く。


『……なんだって?』


 意味が分からない。


「それでは、明日より先ほど呼びましたクラスでの授業が各々始まりますので、前に貼りでしてある案内を見て自分の教室を確認しておくこと。そして皆さん、これからも努力を怠らず精進するように」


 一度言葉を止め教室全体を見回すケイト。


「それでは、これにて1-4最後の授業を終わります。1ヶ月間ありがとうございました」


「「「ありがとうございました」」」


 こうして、ケイトの笑顔で元クラスメイトたちの感謝で1ヶ月の仮クラスは締めくくられた。

 授業が終わり周りの生徒たちはそれぞれ談笑したり前に張り出された案内を確認しに行ったりそれぞれがそれぞれの行動に移っている。

 そんな中、状況が理解できず沈黙しながら頭の中を混乱させていた。


「リアムさん。あなたにお話があるので申し訳ないですが一緒についてきてくれますか」


 どうして呼ばれなかった。

 もしかして内申点が低すぎて他のクラスで呼ばれたのを聞き逃した。

 いやしかし、1位ですよ? 


「リアムさん!聞いていますか!」

「ケイト先生?」

「やっと気づきましたか……大丈夫ですか?」


 肩を掴まれ体を揺らされて、やっとのことで反応を示したことを心配された。


「だいじょうぶです」


 上の空ながらも、ぼんやりと答えた。


「そうですか。それでは改めてリアムさん。あなたにはお話があるので一緒についてきていただけませんか?」

「……はい」


 なんだろうか。

 名前がクラス分けの点呼で呼ばれなかったこと?

 ……はっ!? 

 もしかして学年主席には集会的な何かで表彰があって、そこでクラス発表とか!?

 それとももしかして、今になってスクール特別措置ができなくなったので入学したこと自体が取り消し、とか?

 混乱していた所為で、呼び出しに良からぬ想像を重ねてしまう。


「では、行きましょうか」


 そんな表には出さない想像を他所に「移動しましょう」と提案するケイトの言葉に対して、静かに立ち上がり、その後へついていく。


 教室の扉を開き、先に廊下に出たケイトの後に続くように廊下に出た後扉を閉めるために振り返る。


「アルフレッド……フラジール……」


 こちらを心配そうに見ているフラジールと、不機嫌そうに見るアルフレッドが視界に入った。


『なんていうか、いい友達だな……』


 彼らの姿が視界に入るだけでホッとする。

 少し元気が出た。

 だから、なんとか笑顔を作り、手を振って「大丈夫」とアピールする。

 フラジールは少し困ったような笑顔で手を挙げて、アルフレッドは「ふんッ」と鼻を鳴らしてアピールに応じてくれた。

 2人の友達にサッと元気を貰い、教室の扉を閉めて再び歩き始める。



──ケイトの研究室──


「どうぞ」


 1-4教室があった校舎とはまた別のこの棟は、スクールの研究棟である。

 ケイトの研究室の所々には実験道具が出しっぱなしになっているが、全体的に綺麗に片付いている印象だった。


「それではそちらに掛けてください」

「はい」


 勧められた椅子に腰掛ける。

 ケイトも対面するように椅子に座った。


「それでは、要件をお話ししましょう」


 僕は生唾を飲むほど緊張していた。


「リアムさん、あなた少し先を見据えた勉強をしてみませんか?」

「少し先?」


 メチャクチャ身構えていたのに、ケイトの言葉の意図が全く掴めなかった。


「……すみません。簡潔すぎました。その……なんと言えばいいのか……新入生のSクラスとして自由科目や魔法授業についてはそのまま受けていただいて結構なのですが、基礎授業に関しては上級生や中等部レベルの勉強をしてみませんか?……ということでして」


 ケイトの手探りから始まった説明に、心がニヤついてくる。

 ……これは、ガッツポーズして大踊りする案件ではなかろうか。


「あなたのクラス扱いを区別し、”S+クラス”というSクラスとは一線を引いたクラスとして便宜を図りたいと思います。もちろん、あなたが望まないのであれば今年はさらに特別に、Sクラスの一般枠を四人としてあなたをSクラスに入れることもできます。ですので先ほどのクラス発表のとき、あなたのクラス発表を控えさせていただいたのですが……聞いてますか?リアムさん?」

「は、はい……聞いています」


 なんとか返事を絞り出した。


「そうですか?……それで、どうでしょう?」

「……どうでしょう、と言うと?」

「ですから、あなたにS+クラスとして更なる特例措置を取りたいと思うのですが、どうですか?と言うことです」

「受けます……!」


 嬉しさのあまり思考の一部がショートを起こしていたらしい。

 身を乗り出すように慌てて質問に応えた。


「よかったです。それでは、そのように便宜を図らせていただきます」


 ケイトは安心したように微笑みを見せる。

 それから話は終盤に差し掛かる。


「実をいうと、私も家名もない平民の出なのです。平民出身の先生方の割合でいうと、これがまた意外と多いのですが、皆さん、様々な壁を乗り越えてこの職についてらっしゃいます。かくいう私も、小さい頃からこの職につくまでは様々な壁にぶつかりました。リアムさんも、これから歩む特殊な道のりなりの壁にぶつかるとは思いますが、恐れず、あなたの目指す道の上を歩めるよう、是非、新しいクラスで頑張ってください」

「はい。先生の期待に応えられるよう、これからも新しいクラスで頑張っていきます!」


 ……これで、ケイトは僕の担任から外れることとなる。

 しかし彼女は担任以外にも水、光、風の魔法に魔法陣学の担当も持っている。きっとまた、魔法の授業なんかではお世話になるはずだ。

 今の自分の第一目標は魔法を使えるようになること。

 その日を迎えるまで、便宜を図ってくれたケイトに『恥ずかしい噂は耳に入れさせない……!』と、新しく固く決意する。


「なんと言うか……あなたと話していると、時々、年相応らしくなくて、とても不思議な感覚に陥りますね」


 自身の経験を語りながら送られるケイトの激励は、今一度、未来に向けての決意を固めさせ、そして、ちょっぴりの往年の寂しさを僕の心に残喚(ざんかん)と起こした。



── 翌日──


「結局、お前もSクラスだったのか」

「いや、それがちょっと事情があって」


 Sクラスの教室で再会した事情を知らないアルフレッドたちに、昨日ケイトと話した内容を伝える。


「はぁ……?なんだそれは!なんで僕よりも小さくて貴族でもないお前がそんな特別措置を受けることになるのだ!」


 突っ込むところ、そこかぁ。

 アルフレッドのこう云う自分の基準を持っているところは、話してる側としては安心する。


「そ、それでも……よかったです」

「やっぱり、は優しいな〜」

「……まあ、良かったのではないか」


 そっぽを向いてこちらをみてはいなかったが、確かにアルフレッドがデレた。


「……」

「……」

「……」


 断編残簡(だんぺんざんかん)の静寂を詠む。


「な……」

「な……?」

「なんとか言ったらどうなのだーーーーーーッ!」


「ウガーッ!」と、アルフレッドがキレた。


「アルフレッドもヤサシイヨー」

「お前のそういうところはやっぱり嫌いだ!」


 そう言って拗ねる彼は、やはり相変わらずだ。


「はぁー。そういえば、Sクラスの担任って誰になるんだろ」

「担任の先生なら、昨日、黒板に張り出してあリましたよ」

「えっ、ほんと?」

「はい……あの、リアムさんは今日はどのようにしてこの教室にいらっしゃったんですか?」

「今日はこの教室に向かうようにってケイト先生に教えてもらったんだー」

「そうだったんですね。だから……」


 ……その人物が歩くたびに、ヒールの音が教室に鳴り響く。


『幻覚に違いない……』


 入室後、開きっぱなしだった扉を閉めて、真っ直ぐ教壇に向かう。


「おはようございます」

「「おはようございます」」

「それでは、早速、自己紹介を始めたいと思います」


 きっと幻覚に違いない。


「私はケイトと言います。これまでの1ヶ月間、仮クラスを担当していたので既に何人かは面識のある子もいるとは思いますが、これから11ヶ月間、よろしくお願いしますね」


 名前も間違いないようだ。

 双子の姉妹かと類推したのに、当たり前のように外れた。


「どうしましたか、リアムさん?……ぷふ」


 一人だけ挨拶をしなかった僕は、きっと鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていたのだろう。


「いえ……なんでもありません」


 今一度、よーくみてみると、ケイトの顔は少し笑っていた。


『ぼくの……』


 ケイトは新しいクラスで頑張ってね、と激励してくれた。


『ぼくの……』


 しかし、彼女は自分が新しい担任ではないということは一言も言っていない。


『ぼくの……』


 それとさ、今の時期から新クラスの担当に就くのだから、1ヶ月間の仮クラスを担任していた先生たちから、新しい担任が決まることはよく考えればわかったことではないだろうか。


『ぼくの……』


 それでも……だからって……。


『ぼくの!……昨日の決意と感動を返せーーー!』

 

 ……だからって、わざわざミスリードしてまで隠す必要はないじゃないか!


「それでは、各人自己紹介をしてもらいましょうか」


 こちらの心情など心当たりもないような顔で、進行を再開させる。


「エリシア・ブラッドフォード。私の家は魔道具を販売していて、将来は英雄のおじいさまとおばあさまに負けない大魔道士になります」

「デイジー・リトルです。家は仕立て屋を経営しています。皆さんと仲良くしたいです。よろしくお願いします」


 Sクラスの教室にいたのは、自分を含めて十五人ほどだろうか。

 中には実力テスト結果発表時に絡んできたエリシアや、同じクラスからSクラスに入ったデイジーと見知った顔も見受けられる。

 今年の一般枠は実質四人、どうやら特別枠で入ってきた生徒が全体の半数以上を占めているようだ。

 全体の人数は仮クラスの時より少ないが、教室の広さは前使っていた教室と然程差がない。

 そのせいか、前の教室より声が通りやすく、よく響くように感じられる。


 ケイトのその言葉に促され、教室の、生徒から見て右側一番前の席の生徒から自己紹介を始める。


「ょ……よろしくおねがいしますぅ」

「皆、よろしく」


 一人ずつ名前と抱負を語る簡単な自己紹介が進んでいく。

 長机に共に座っているフラジール、アルフレッドの自己紹介も終わった。


『次は僕の番。なるべく普通に、普通に』


 この自己紹介は、なるべく普通に、悪めだちしないことが重要だと思っている。……既にこれまで十分と悪目立ちしてしまっているから、これ以上印象に残すような真似をしても、変なやっかみを受けそうというのが本音だ。


「名前はリアム。夢は全属性の魔法を自在に操れるようになることです。よろしくお願いします」


 実に、簡潔かつ子供らしい夢を語る。

 完璧な自己紹介ではないだろうか。

 うまい具合に自重できたと自画自賛し、内心でこれまでの悪目立ちを払拭突き破らんばかりのガッツポーズ。


「全属性……」

「やっぱり子供か?」


 ……テメェらより大人だよ! 

 にしてもなんだろう。

 教室のあちらこちから、馬鹿にするような笑い声が聞こえてくる。


「はい、素晴らしい立派な夢でしたね。それでは次の方、お願いします」


 注目を集めるように手を合わせ、ケイトがこのなんとも微妙な空気をフォローしてくれる。

 でも、声は実に控えめだ。

 その後も「ありえね〜」や「ありえないよね」なんて、周りの生徒達は影で同調していた。


「おい、一応確認するが、本当に全属性魔法を自在に扱えるようになると思っているのか?」

「えっ……ダメなの?」

「お前はなんというか……やはりまだ小さな子供なんだな」


 なんだって……!

 お前にだけは言われたくない!


「いいか?よくよく考えてみろ?お前も自分のステータスは見ただろ……?」


 見たが故、なのですが。


「はぁ〜……だからな、人種ヒトシュが扱える魔法属性は多くても精々5属性程度だ」

「あっ……」


 そういうことですか。

 そういえば人種が使える属性は平均的に無属性を除いて2〜3属性程度、多くても5属性ぐらいだったっけ……すっかり忘れてた。


「わかったか?人種はどうあがいても全属性の魔法は使えない。それに、人種より魔法に長けているエルフやドワーフといった妖精種、それから魔族や高位のモンスターでも全属性の魔法が使えたという記録は少ない。全魔法を習得するというのは不可能である、というのが人種の一般常識なのだ」


 迂闊だった。

 悪目立ちしたくないとか、調子乗ってた自分が恥ずかしい。

 これでは痛いロマンチスト、顔が熱い。


『ん?……確かに迂闊だったけど、でもロマン云々で僕が恥ずかしがる必要なくない?』


 だって、属性親和全属性だし。


 よくよく考えてみると、それに手が絶対届かないとは限らない立場に自分がいたことに帰結する。

 まだ魔法を使ったことはない。

 だったら可能性はあるよね。


「おい……どうして笑ってるのだ?」

 

 あらゆる魔法に挑戦できる資格を持つことを再認識し、笑みが溢れた。


「……気にしないで」


 心の底から溢れてくる嬉しさに、新クラスから始まる魔法の授業を今か今かと待ちきれない。

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