第24話 侵攻・前編
本日、急遽ヴァリアント部隊に召集がかかり、正規ヴァリアント兵が全員屋外訓練場に集まった。
その前ではヘンネが立っており、毅然とした態度で話し始めた。
「全員集まったな。では、今回の召集について説明する」
軍の部隊が召集される要件など限られている。それがわかっているために、誰もが気を引き締めた表情をしている。
「フェルンバーク帝国が再び侵攻してきた。進軍速度は以前よりも遅いが、数は約三倍。それを叩き潰しに行く。各自用意が出来次第、装甲車両に乗ってくれ。以上」
ヘンネはすぐに踵を返し、自身のすぐそばに置いていた荷物を持って歩き出し、他の隊員たちも一斉に動き出した。
移動中の車両の中では、それぞれが戦闘に向けて準備をしていた。ヴァリアントの状態の確認をする者、目を閉じて精神統一する者、同僚と談笑している者。よって車両内はそれほど静かではなく、かといって騒がしい訳でもない。
真詩義はというと、ラヴィニアやミリアムといったメンバーが乗っている車両にいる。
「………」
目を閉じて、地下闘技場を思い出す。そこでは自分より二回りほど大きい巨体を持った強者が犇いており、正面から戦っては勝てない相手ばかりであった。それでも自分は優勝した。その事実は、真詩義の戦闘においての絶対的な自信になっている。
それだけではなく、もし相手が格上ならば、それを如何にして撃破するか。強者を打ち倒すことに快感を感じる真詩義にとっては望むところである。
「ねぇ、マシギ」
イメージとレーニングをしていると、ミリアムが声をかけてきた。
「怖く、ないの?」
真詩義が聞いているのかを確認しないままにミリアムは言葉を続ける。真詩義は聞いてはいるものの、返事をするのは憚られた。
「マシギはさ。地下闘技場、だったっけ? そこで命をかけた戦いをしてたけど、私はそんなことをしたくない。それに、戦争だなんて………」
「別にいいんじゃないですか?」
段々と表情を暗くするミリアムに、真詩義は当然のように言い放った。
「怖いものは怖いですし、死ぬときは死にます。地下闘技場では逃げれませんでしたから、負けを認めるか、死ぬか。そのどっちかしかありませんでした」
「それって…」
「でも、この戦いで負けを認めたら、フェルンバーク帝国、でしたっけ? そこに負けたということになります。個人ではなく、王国の敗北となります」
戦争で国が敗北すると言うことは、相手国に服従するという意味になる。もしそうなれば、リーゼライド王国の民は虐げられることになるだろう。人一倍正義感の強いミリアムには、それは許しがたいことであった。
「ミリアムさん」
真詩義はミリアムの手を握ると、優しい笑みを見せた。
「俺には帝国だとか王国とか、戦争とか。難しいことはよくわかんないですけど、ヘンネさんやヴェリエルさん、ミリアムさんに負けて欲しくないんです」
「え……?」
「俺は、俺にできることをします。だから、ミリアムさんはミリアムさんにできることをしてください」
自分にできること。真詩義にとって自分にできることは、戦うことだけ。それがわかっているからこそ、そして自分に良くしてくれた人たちを思うからこその考えである。
ミリアムはそれに触発されたのか、沈んでいた表情から一変、決意に満ちた表情を真詩義に見せた。
「私にできること、ね。私は正面から戦うことしかできないから、すぐにやられちゃうかもしれないけど」
「なら、俺が露払いをしますんで、ミリアムさんは大将首をお願いします」
「そう? マシギがそう言うなら、張り切っちゃおうかしら」
これから戦争の最前線へ行くと言うのに、二人の間にそんな雰囲気はない。青春真っ盛りのようなその光景を、ラヴィニアが楽しげに見ていた。
それから十分後。装甲車には窓などがなく、操縦席以外から外の様子を見ることはできない。よって乗っている隊員たちは現在地を確認するには操縦者に尋ねるくらいしかできないのだが、真詩義の乗っている車両の誰もそれをしようとはしなかった。
「………」
真詩義は再び精神統一に入っており既に一時間ほど経過している。ミリアムは爆睡しており、ラヴィニアはどこから取り出したのか本を読んでいる。
本当にこれから戦争に行くのだろうかと、三人以外の隊員たちは盛大にため息を吐いていた。
「前線に到着した! 各員、戦闘準備!」
操縦席から威勢の良い声が聞こえ、真詩義は目を開くと同時に立ち上がった。
「よしっ! って、ミリアムさん?」
「うみゅぅ……」
先輩は絶賛爆睡中であった。だが放っておくわけにもいかず、真詩義はミリアムの体を揺する。
「ミリアムさん、起きてください!」
「ぬふふ~♪ ………あれ?」
「前線に着いたみたいです」
「うぇ、嘘!?」
驚きと共に立ち上がり、自身のヴァリアントが収納されている箱、コフィンを開けて装着し始めた。
真詩義もそれに続くようにコフィンを開け、中身を確認する。そこには以前使用した真紅のベルスティ型が収められている。技術士たちのおかげで修理は完了しているが、やはり連続稼働限界の五分は変わらない。真詩義の知らない場所でヘンネやヴェリエルが代わりのヴァリアントを探していたが、戦闘型は最低性能のリオーズ型しか余っていなかった。王国軍ヴァリアント部隊では、最低でもジルベルト型やそれと同等の性能のヴァリアント以上でないと戦闘での使用は禁止されている。
「さて、やりますか」
装甲車の内壁の一部が開き、外の景色が見えた。遠くでは砂埃が舞い上がっており、前線の位置を知らせてくれる。
「総員、現場に急行しろ!!」
外から聞こえてきたヘンネの声に、車両内の隊員たちは一斉に飛び出した。
ヴァリアントを用いた戦闘方法は未だに確率されていない。それぞれが意のままに動き回り相手を掻き乱すのが有効という者もいれば、集団戦法で相手を真正面から殲滅する方が有効という者もいる。
リーゼライド王国では、前者の方法が採用されている。
「せぁああ!」
ヴァリアントの出力を利用すれば、非力な女性でも大男を投げ飛ばすほどの力が出る。それが一人前の戦士が使おうものなら、それだけで脅威と化す。
敵陣に突っ込んだ真詩義は、紅い風のように真正面の敵を体当たりで吹っ飛ばすと、すぐさま回り蹴りで脇を通り抜けようとした相手の顔面を捉えた。
「ヴァリアント兵だ! 包囲して死角を突け!!」
敵の指揮官の一人がそう指示を出し、目の前の大軍が一斉に隊列を整え始める。しかし、真詩義は相手の動きを待つことなく近い敵からなぎ倒していき、着々と敵指揮官との距離を詰める。
帝国軍はそれを剣や槍で迎撃しようと試みるが、構えて得物を振るう前に体が宙を舞っている。その光景に、戦線を食い止めていた王国軍人たちは唖然としていた。いくらヴァリアントを装着していると言っても、中身は人間。できる動きは高が知れているはずなのだが、ヴァリアントを全力で使用している真詩義の動きはあまりにも異常だった。
「随分派手にやっているな」
味方を守るように敵を蹴散らしているヴェリエルは、苛烈な勢いで敵指揮官に迫って行く真詩義を見て感心していた。
ただ、涼しそうな発言とは裏腹に、ヴェリエルの足元には帝国兵が転がっている。まだ息がある者もいるが、大半は内臓や脊髄をやられて死亡している。
いくらヴァリアントを装着しているとはいえ、風が通り抜けるが如く敵の大軍に突っ込んで行くのは無謀である。ヴァリアントの装甲が頑丈とはいえ、槍などで突かれれば表面が変形し、ひどい時には穴が開く。故に、熟練のヴァリアント兵こそ、自分から容易に攻めることはしない。
「とはいえ……」
フェルンバーク帝国の戦力は、見渡す限り通常の歩兵しかいない。ヴァリアント部隊も到着しているのかもしれないが、姿が見えない。歩兵だけで攻めて来るという馬鹿なことはしないはず。
ならば、敵ヴァリアント兵が潜んでいるとして、一体どこから攻めて来るのか。視線を動かしながら、ヴェリエルは接近してきた敵兵の喉に一閃の拳を食らわせると、相手は血を噴いてその場に崩れ落ちた。
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