第2章 出会いと再会 35

それから4日後、その日は土曜日の朝から宝道家の屋敷の中は慌ただしく動いていた。


「彰人はいつこちらへ着くの?」三千恵


自室にある鏡の前で着物のえりを正しながら後ろの向こうに控える栗山にそう聞いた。


「確か、朝9時には東京駅に到着すると伺っております」栗山


「もっと早くならないのかしら」三千恵


「空の便もございますが、急に変更するのも彰人さまには負担かと」栗山


栗山の言い分にやむなく納得して軽くため息をこぼした。


「仕方ないわね…でも、彰人も来年は卒業よ。 この家を出て行って4年…もうそろそろ、子供の時間も終わりを告げる頃だわ」三千恵


「やはり会長は彰人さまを呼び戻されるおつもりで?」栗山


栗山の質問に反応するように三千恵は振り向いて笑いながら答えた。


「ははっ、当然でしょ。 あの時は彰人が頑なだったから仕方なく出て行かせたけど、財閥後継者の座をそんな一時いっときの感情で捨てられるほど軽いものじゃないわ」三千恵


「なるほど」栗山


「それにあの時は彰人もまだ18だったけど、今はもう22よ、大人になるにはちょうど良い月日が経ったわ。栗山、 彰人が戻ってきたら私と二人で話せる場を用意してちょうだい」三千恵


「かしこまりました。 しかし会長、和実さまと奥様は和実さまご自身が後継者候補だと思っておられるようです」栗山


「ふふっ。 そんなもの放っておきなさい」三千恵


「しかし…」栗山


「あんな世間知らずの小娘に財閥グループのトップなんて、ははっ、絶対に無理だわ」三千恵


「承知致しました」栗山


しばらくして、新幹線で東京駅へ向かう道中、彰人は隣りで機嫌良く携帯で好きなMVを観賞している璃子に独り勇気を出して声をかけた。


「璃子、話がある」彰人


「…えっ?」璃子


片耳でイヤホンを着けていたが夢中で観賞していた璃子はつい反応が遅れぎみになってしまうとそれを見た彰人は思わず続きの言葉を躊躇った。

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