第2章 出会いと再会 33

あれからマンションのエントランスを出た光司はふと歩みを止めて立ち止まると会長と二人で話したときのことを思い出した。


提示されたのは光司の父親さえも知らない誓約書の内容だった…


『この事は決して他言無用よ。 そして誓約書の内容は必ず遵守すること』三千恵


『それは構わないが、あんたら彼女と本当はどういう関係だ? 普通の家族じゃこんなのありえないだろ』光司


『ははははっ! 私たちは財閥一族よ? その辺の一般家庭と一緒にされたら困るわ』三千恵


『いいこと。 財閥っていうのは秘密と嘘と圧倒的な力で出来ているの…あなたみたいなとこの三流企業の物差しで私たちを理解しようとしないで』三千恵


光司は薄ら苦笑いを一瞬浮かべると特に反論もせず誓約書にサインした。


日和と仮面夫婦でいることを遵守さえすれば光司にとってこの誓約書の内容は悪いものではなかった。


外で作った女性関係は維持したまま、光司自身の地位は財閥令嬢の夫として格上げされた。


さらに一生遊んでも困らないように今後も会長自ら援助するという…日和に興味も関心もない光司にはある意味不可解ではあるが夢のような内容だった。


そんなことを漠然と思い出していると後ろのエントランスの自動扉が開く音がしてふと我に返ると後ろからマンションの住人と思われる男性が光司の横を通り過ぎて行った。


「はぁ…俺にはどうでもいいことだ」光司


独りぽつりと呟くと光司は気持ちを切り替えるように再び歩みを進めた。


その頃、宝道家の屋敷では里実が自ら三千恵の部屋に紅茶とお菓子を持って訪ねていた。


「失礼致します」里実


扉を静かに開けて室内に入ると奥にある大きなデスクの前に座り三千恵は書類の決済をしていた。


「何か用?」三千恵


「いえ、お忙しいと伺ったので紅茶とお好きなレーズンバターサンドをお持ちしました」里実


「そう。 そこのソファーの前にでも置いておいて」三千恵


「はい…」里実

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