第2章 出会いと再会 27

展示室に入ると様々な油絵の作品が展示されていた。 どれも甲乙つけ難いほどだったが一際目を引いた作品が一つだけあった。


それはたくさんの作品の中に置かれていても目立つほどに美しく笑顔が華やかに描かれた1枚は彰人が描いた日和の絵だった。


直哉は制作中の絵を見ていたが、その完成した仕上がりを初めて見た瞬間、思わず一瞬見蕩れてしまうのと同時に彰人の隠しきれない才能に嫉妬を感じていた。


『なんてもん描いてんだ…!』直哉


しかし直哉のそばで同じ絵を見ていた璃子は言葉を失ったままその場に立ち尽くしていた。


「ねえ、なおくん。 この綺麗な人、誰か知ってる?」璃子


璃子の質問に一気に現実に引き戻された直哉は平静を装いつつ言葉を返した。


「あぁ、その子彰人の妹だよ」直哉


「妹…?」璃子


璃子は直哉の方へ振り向きその目を真っ直ぐに見つめて確認してきた。


「そうだよ。 彰人のやつ実家の妹のこと思い出してこれ描いたんだと。 まったく隠れシスコンも呆れるよな?」直哉


直哉は何でもないように笑いながら璃子にそう説明した。 だけど、璃子の中で言葉にならない何かが拭いきれないままその胸の奥にみつこうしていた。


そして璃子はもう一度絵に視線を向けてぽつりと呟いた。


「あきくんの好きな人かと思った……」璃子


その言葉を聞き逃さなかった直哉は一気に焦りと恐怖を感じていた。


『なぁ、妹に恋したことあるか?』彰人


頭に思い浮かぶ作業室での彰人のふとしたあの一言は悪い冗談ではなかったのかもしれないと完成された絵を見たあとの直哉は璃子が呟いた言葉で何となくそう思った。


それでも直哉は笑顔を作って璃子の言葉を否定した。


「何言ってんだよ。 彰人が璃子ちゃん以外の子を想うわけがないだろ」直哉


「噂で聞いたけど、今度二人で彰人の実家に行くんだって?」直哉

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